アドビが日本のデジタル課題への取り組みを発表 デジタルエコノミー/デジタルトラスト/デジタル人材が軸

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2022/07/04 07:00

 アドビは、日本社会が直面しているデジタル課題に対して、デジタルエコノミー(デジタルテクノロジーやデータを活用した経済活動)の推進、デジタルトラストの実現、デジタル人材の育成という3つの方針で取り組むことを発表した。とくに喫緊の課題であるデジタル人材の不足に対して「クリエイティブ デジタル リテラシー」を持つ人材の育成を加速する施策を新たに展開する。

 メディア事業戦略発表会に登場したアドビ株式会社 代表取締役社長 神谷知信氏は冒頭、デジタル体験について見解と意気込みを明かした。

「最高なデジタル体験を実現するための要素として、ふたつの大事な要素があると考えています。ひとつがコンテンツの重要性。より魅力的で、見たいと思えるデジタルコンテンツをお届けしなければ、消費者はブランド価値に共感しない時代になっています。またそのデータをどういう形で、適切な方にお届けするかということも重要になってきている。弊社の強みはコンテンツを作成する領域とデータを分析してお届けするプラットフォームですので、提供している3つのクラウドを融合しながら最高なデジタル体験をお客様にお届けする。これに対し引き続き、努力していきたいと考えています」

アドビ株式会社 代表取締役社長 神谷 知信氏
アドビ株式会社 代表取締役社長 神谷 知信氏

 また同発表会には、昨年3月にアドビのグローバル顧問評議会「International Advisory Board」に参画した竹中平蔵氏も登場。「デジタルエコノミー」、「デジタルトラスト」、「デジタル人材」の3つの観点から、日本社会におけるデジタルの課題などについて次のように語った。

「デジタルエコノミーはどんどん進んでいき、日本はすさまじいデジタル資本主義の競争の中に入っていきます。言ってみればそれがまさに新しい資本主義なのだと思います。それを実現していくためには規制を緩和し、デジタル化を進めて、デジタル化のための投資を行わなければいけませんが、その背景にはやはり“トラスト”がなければいけない。そして何よりもそれを支えるための人材が必要です。そういった観点で、企業が政府と一体となってテクノロジーと人材と資金力を活かしながら日本経済を発展していって、国民1人ひとりの生活水準をあげていく。そんな社会を実現したいと思っています」

竹中平蔵氏
竹中平蔵氏

デジタルエコノミーの推進

 世界中であらゆるものがデジタルに移行する中、娯楽や教育の場、企業など、より幅広い人がデジタルコンテンツを制作し、消費するようになった。SNSのような配信先となるチャネルやデバイスが拡大する中、多様な顧客体験のニーズに応えるには、より多くのコンテンツをより速いスピードで創出することが求められる。また、3Dやメタバースといった技術革新も急速に発展している。アドビはあらゆる人のコンテンツ創出とデータ活用をテクノロジーで支援することでデジタルエコノミーを推進。その新たな取り組みとしてデジタルの力で個人商店や伝統文化を活性化するプロジェクトを展開する。

下北沢で個人事業主のクリエイティブスキル強化を支援

アドビは、東京都世田谷区下北沢にて約800店舗を対象としたAdobe Expressのワークショップを実施し、各店舗の担当者がビジネスを加速させるために必要となる、チラシ・ポスター・SNS用コンテンツなどのクリエイティブを使った情報発信を、デザインの側面から支援していく。誰もが作りたいものを簡単に作ることができ、自分の手で発信できるまでサポートすることで、デジタルを通して地域の活性化を目指す。このプロジェクトは、下北沢駅周辺商店街の店舗担当者を対象としており、7月中旬から開始する。

「昨年12月に発表した『Adobe Express』は、とくに中小企業の皆さんに大きなメリットのあるアプリケーションになると考えています。ある程度予算を確保できる企業さんは、ウェブサイトやアプリを開発することができますが、すべてできるとは限らない。今はソーシャルというプラットフォームがある以上、ご自身の店舗や事業を直接ブランディングできる時代になっている。Adobe Expressは、それを実現するアプリケーションです」(神谷氏)

伝統文化デジタル協議会と協同で日本の伝統文化を発信:アドビが運営するクリエイターSNS「Behance」とNFTを活用して世界への展開と新たな収益モデルを構築

生産額の減少や従事者の高齢化が進む伝統工芸の分野を支援するため、アドビの擁する世界最大級のクリエイターSNS「Behance」を使って、日本の伝統工芸品を紹介する取り組みを開始した。海外のクリエイターやマーケターに向けて、日本の伝統工芸品の魅力を伝えていくとともに、NFTに対応したBehanceで作品を公開することにより、伝統工芸における新たな収益モデル構築を支援する。

デジタルトラストの実現

 膨大なデータの活用が世界経済の成長を牽引し、加速度的に増えるデジタルコンテンツが人々の生活を豊かにする一方、デジタルにおける信頼性(デジタルトラスト)をどう担保するかという新たな課題も生まれている。アドビは、デジタル作品の盗用やディープフェイクといった問題にテクノロジーで対応するとともに業界を横断した「コンテンツ認証イニシアチブ」を組織。750社以上の参加企業とともに取り組んでいる。

「クリエイティブな世界ですと、ディープフェイクやデジタル作品の盗用などが新たな社会問題になっています。PhotoshopやAdobe Premier Proなど、アプリケーション上で改ざん防止も行っていますが、やはり一社だけでは難しいため立ち上げたのがコンテンツ認証イニシアチブ(CIA)です。ソフトウェア企業だけでなく、ハードウェア企業、メディア企業などが参加しています」(神谷氏)

 また、デジタル文書のセキュリティにおいては、PDFの開発元として、高い安全性と信頼性を備えるAdobe Document Cloudを提供し、セキュリティ要件が厳しい行政機関や金融機関などにおける重要書類の長期保存にも幅広く利用されている。 

 顧客体験の分野においては、Cookielessへの対応、GDPRや個人情報保護法の改正といった企業が顧客のプライバシーに配慮したコミュニケーションをすることが求められてる。アドビは、データ活用を行うためのデータガバナンス機能も搭載した顧客体験管理(CXM)ソリューション「Adobe Experience Cloud」により、企業がデータを活用し、より高度なパーソナライズした顧客体験を提供できるよう支援する。

デジタル人材の育成

 デジタル競争力の低迷は、日本社会における喫緊の課題となっている。IMDの調査「世界デジタル競争力ランキング2021」によると、日本のデジタル競争力は64ヵ国中28位と低く、とくに「人材/デジタル・技術スキル」が62位と顕著に低い状況にある。

 アドビはクリエイティブによるイノベーションと顧客体験の向上を牽引してきた知見と経験を活かして「データを解釈し、課題を発見する能力」と「課題に対してアイディアを引き出し、形にする能力」を兼ね備えた「クリエイティブ デジタル リテラシー」を持つ人材の育成に取り組んできた。今後、社長直下の専門組織を設置し、デジタル人材の育成を加速する。

「新しい価値を想像する人材が必要とされているなかでは、『アイディアを引き出し、形にする想像力』と、『データをきちんと解釈して課題を発見する能力』のふたつが非常に重要になりますが、これを我々はクリエイティブデジタルリテラシーだと考えています。大切なのは、デジタルリテラシーだけではなく、『クリエイティブ』という言葉。これから日本の社会や世界を支える人材に対し、我々のテクノロジーで貢献できると自負しています」(神谷氏)

 同発表会の最後、神谷氏は次のように今後の抱負を語った。

「デジタル・エコノミーを推進する。デジタルトラストを実現する、クリエイティブデジタルリテラシーを持つ人材を育成する。『心、躍る、デジタルを加速する』のビジョンのもと、これらをアドビジャパンの大きな優先事項として、これから30年また頑張っていきたいと思います」