Pinterestの2023年トレンド予測から見えたカギは「セルフ」 SFファッションやフラワーデザートにも注目

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2022/12/16 16:45

 ビジュアル探索プラットフォームの Pinterest は、来年のトレンドを選出した年刊レポート「Pinterest Predicts 2023」を発表。毎年発表している本レポートでは、どのようなキーワードが検索されていたのかを分析し、2023年に人気上昇が予想される注目トレンドを見つけ出している。

 2023年のトレンド予測は、数ヵ月におよぶデータ収集、分析、評価によって導き出されたものであり、その結果が、2023年に世界で話題を呼ぶ幅広いトレンドを集めた。これまで、Pinterestのトレンド予測は高い精度を保っており、過去3年連続で予測したトレンドは約80%が現実になっている。

 これを受け、Pinterest Japanは、2023年のトレンド予測がテーマの「Predicts プレスイベント」を開催を。冒頭で、「トレンドになりそうなものをいち早くキャッチできるだけでなく、企業が未来のトレンドのインサイトを活用するための有効なツール」とPredictsの概要を紹介したのち、2023年に流行を予測しているトレンドの中から、とくに同社が注目しているトピックを厳選して解説した。なお、今年から検索データの対象に日本も含まれている。

注目トレンドとして挙げられた27のトピックの一部
注目トレンドとして挙げられた27のトピックの一部

 最初に、Pinterest Japan ビジネスマーケティングリード 石井恵子氏が登壇。主要トレンドとして設けた4つのカテゴリーをかいつまんで紹介した。

ファッション

「2023年は、OOTFと呼ばれる、サイバーストリートファッションなど未来のファッションをZ世代とミレニアル世代が牽引します。テクノロジーとサイバーアートが融合したSFファッションは、ダークなファンタジー映画などからインスピレーションを得て、ファッションの概念を押し広げています。また、2000年代のラブコメからひらめきを得ており、ミレニアル世代にとっては懐かしいロムコムファッションも、ミレニアル世代にとっては新しいトレンドとなっています」

インテリア

「2023年は古いアイテムをインテリアに取り入れ、譲り受けたビンテージアイテムをモダンスタイルの中に融合させるのがトレンドです。このトレンドを牽引する、X世代、ベビーブーマー世代によって、モダンとアンティークの組み合わせ、また暮らす人の個性とノスタルジーの共存する空間が注目を集めています。住環境に自分らしさを求める人々が、自由に好きなように表現するトレンドは、2023年もますます盛り上がりを見せそうです」

フード

「アルコールを飲めるか飲めないかではなく、モクテルもカクテルも自由にチョイスに含めるのが、X世代が推進するところです。生活者の間ではアルコールに対する意識が変わりつつあり、好みの気分でドリンクが選ばれるようになっています。またX世代とミレニアル世代は花を使ったスイーツにも注目。ここ数年でパンづくりやお菓子づくりにハマった人も多かったと思いますが、そういったものをひと通りマスターした中、食べることができるアート作品への興味が開花してきています。お花をモチーフにしたフラワーデザートづくりにも注目が集まっています」

ウェルビーイング

「ここ数年でさらに重要性を増しているトレンドです。リモートが続き、座りすぎからくる日常の不調を感じる人が多いなか、どこでも誰でもできる気軽な動作をもとにしたエクササイズが人気急上昇中です。スマホ首を解消するストレッチやワークアウトなどの検索がX世代やミレニアル世代で増えています。また誰かに相談するセラピーに代わり注目を集めているのが、自己表現アートセラピーや、音楽療法などです。なかでも絵日記のように記録することをアートとして表現した「アートジャーナルセラピー」の検索は37倍も伸びています。自分と向き合うための新しい方法を模索するZ世代とミレニアル世代がトレンドを牽引しています」

Pinterest Japanビジネスマーケティングリード 石井恵子氏
Pinterest Japanビジネスマーケティングリード 石井恵子氏

 発表会後半では、Pinterestのインサイトリードをつとめる本田絵里子氏、2022年より未来事業創研および消費者研究プロジェクト「DENTSU DESIRE DESIGN」に所属する電通の千葉貴志氏、外資系インテリアブランドの社員として働くかたわら、休日はメルボルンのスタイルを取り入れたCOCO coffee and gardenを運営しているPinterest クリエイター・髙橋 彩氏が登壇。トークセッションを行った。

 まず、2023年のトレンド予測の全体的な傾向として見えてきたテーマとして、本田氏は「個の確立・個の時代」「自己表現・セルフエクスプレッションの多様化」「セルフケアの重要性」の3つを挙げた。

「この3つはいずれも『セルフ』がテーマ。たとえば自分を確立したい、自分らしく生きるということや、自分で自分自身をケアしていく点が重要になっていきます。コロナによるさまざまな変化、不安定な経済や政治状況が続いている中、より自分の軸をもつこと、そして自分自身をケアしたり表現していくことが重要になっていくのではないかと感じています」(本田氏)

 ひとつめの「個の確立」においては、電通の千葉氏も「大きなトレンドだと感じている」としたうえでこのように続けた。

「『ぼっち』や『おひとりさま』など、少し前まではひとりでいることは『寂しい』という印象を持たれることが多かったように思います。しかし今は『ひとりでいることをあえて選ぶ』『自分と向き合う時間をつくるためにあえてひとりでいる』という姿勢が、トレンドになっていると感じています」

 「自己表現の多様化」については「自己表現の方向」と「アイディア創出のもと」というふたつの方向性があるとしたうえで、それを代表とするトレンドとして「フラワーデザート」をピックアップ。

「もともと日本のPinterestでも、フラワーアレンジメント、フラワーメイクなど、お花を取り入れることがトレンドになっていました。それがさらにコロナ禍により家で過ごす時間が増えたことで、パンやスイーツづくりなどをとおしてより自分のユニークな面を表現していこうと思ったときに、トレンドになったのではないかと考えています」

 Pinterestクリエイターの髙橋氏もフラワートレンドに着目。2021年秋ごろにフラワードリンクの提供を始めたと言う。

「そのころもステイホームの流れが続いており、美術館やアートギャラリーになかなか行けず、きれいなものを見る機会が減ってしまっていました。そこで、比較的出かけやすいカフェで、見た目から楽しめるドリンクを作りたいと思ったことがきっかけです」(高橋氏)

Pinterest Japan インサイトリード 本田絵里子氏(左)、株式会社電通 ソリューションクリエーションセンター未来事業創研 DENTSU DESIRE DESIGNプロデューサー/プランナー 千葉貴志氏(真ん中)、COCO coffee and garden ファウンダー/デザイナー髙橋 彩氏(右)
Pinterest Japan インサイトリード 本田絵里子氏(左)、株式会社電通 ソリューションクリエーションセンター未来事業創研 DENTSU DESIRE DESIGNプロデューサー/プランナー 千葉貴志氏(真ん中)、COCO coffee and garden ファウンダー/デザイナー髙橋 彩氏(右)

 自己表現やアイディアの創出元ともに多様化しているファッションについて、海外ではすでに近未来的なサングラスなどのトレンドが始まっていると指摘。日本のPinterestでも近未来のファッションに関する検索が増えてきており、こういった形でより自身のユニークネスをファッションで表現していく傾向が見えている。

 もうひとつ注目すべきトレンドとして挙げられたのが「ロムコムファッション」。本田氏、千葉氏はそれぞれ、このトレンドから見えるファッションにとどまらない傾向を指摘した。

「テレビ番組や映画、音楽など、若い方々が昔のファッションやライフスタイルをオンラインストリーミングなどで発見し、自分の中に取り入れファッションとして表現する、といった動きもトレンドになってきています」(本田氏)

「昨今、平成レトロや昭和レトロという言葉を耳にする機会も増えましたが、単に『レトロ』なだけでなく、昔と今を織り交ぜ、そのなかでフラットに選んでいく『前時代フラット』のようなイメージがあると感じています。古いものと新しいものを横並びにし、自分が良いなと思うものを選び取る感覚が、消費者の間で芽生えてきているのではないでしょうか。古い情報やコンテンツへのアクセスが容易になった分、古いものと最新のものをフラットに見比べることが根付いてきているのではないでしょうか」(千葉氏)

 続いて日本でも重要度が高まっている「セルフケア」に関して、本田氏は「メディカルなケア」と「メンタルヘルスのケア」のふたつにわけて解説した。とくに後者については、海外では一般的なものとして人々の生活に馴染んでいるとしたうえで、「これから日本でもよりポピュラーになるのではないか」と指摘。デジタル疲れをはじめ、日常に疲れが出てきたときに「癒しやポジティブさが大切になる」と続けた。これを受け千葉氏も、次のようにコメントしている。

「コロナウィルスの影響でおうち時間が増えていったなかで、暮らしの中にあるストレスやマイナスをゼロに持っていくための癒やしが求められていましたが、それが次の段階にきているという印象です。マイナスをゼロに、というよりも、自分が何をしたいかなど少し先の未来を想像し、それをするために心身ともに良い状態にもっていくための『癒やし』がトレンドになっていると感じています」

 最後に触れられたトピックは、「これらのトレンドを企業がどのように活用していくか」。本田氏、千葉氏がそれぞれ見解を述べ、トークセッションを締めくくった。

「Pinterestを活用している理由を訪ねたときの回答として挙げられるのが『ワクワクする』『疲れている時にリラックスしながら見る』『自分の好きなものに囲まれたり、探している時に癒しを感じる』といったもの。こういったニーズは今後も増えていくのではないかと思っています。そう考えたときに、ポジティブに生きていくことを応援するような広告は時代にマッチしているのではないかと、トレンドや普段のインサイトからも感じています」(本田氏)

「人が物を買ったり何かするときは、そのものが欲しいというよりも、その先にしたい暮らしややりたいことがあるはず。やってみたいことや、その先にある『なりたい自分』や『ちょっと先の自分の理想』など、モノを売るよりも『その先』を提案していくことが、今後のマーケティングにも活きていくのではないでしょうか」(千葉氏)