クリエイターも知っておきたい、「ダブルメジャー」が持つ本来の価値と必要な3つの考えかた

クリエイターも知っておきたい、「ダブルメジャー」が持つ本来の価値と必要な3つの考えかた
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 レイ・イナモトさんが2016年にニューヨークで創業し、今年2019年の7月に東京オフィスを設立した「I&CO Tokyo」の共同代表・間澤崇さんによる連載。アクセンチュアのコンサルタントとしてさまざまな企業戦略を手がけてきた間澤さんが、ビジネスでも必要不可欠なデザインが持つ役割や効果を紐解くことで、クリエイターがビジネスというフィールドで戦っていく武器とその効果的な使用法を、全3章でお伝えします。今回から始まる第3章のテーマは「次の発明を生み出す働き方」。第3章の初回では、「ダブルメジャー」についてお伝えします。

 第1章では「ビジネスにおけるデザインの役割」、第2章では「ビジネスを発明する方法」についてお伝えしてきましたが、今回から始まる第3章は「次の発明を生み出す働き方」がテーマです。

 これまでの記事では一貫して、クリエイターがビジネスの視点をもつ重要性に触れてきました。チーム全体がこのような複眼思考をもつために、1人ひとりのメンバーに求める人材要件をI&COでは「ダブルメジャー」と呼び、重視しています。第3章の1回目となる今回は、このダブルメジャーについて掘り下げます。

これからの前提となるのは尊敬と理解

 ダブルメジャーとは、ひとりが複数の専門性(メジャー)をもつこと、あるいはそれを可能にする教育制度を指します。私たちの考えるダブルメジャーはもう少し広い意味で「チームの誰もが複数の専門性をもっている状態」といったところでしょうか。

 あらゆるビジネスで共創が必要となるこれからの時代において、ダブルメジャーは不可欠です。その理由は、チーム全体の総合力が上がるといった単純なものではありません。もちろんその側面もありますが、ダブルメジャーの本当の価値は、ほかの専門性への尊敬と理解が自然と備わる点にあります。自ら複数の専門性をもつ人ほど、自分にはない専門性の奥行きを直感的に理解できるからです。

 私は大学でソーシャルイノベーションとプロダクトデザインを学び、のちに金融とビジネスコンサルティングの世界で経験を積みました。共同代表の高宮は事業創造とクリエイティブを、I&CO創業パートナーのレイ・イナモトは美術とコンピューター・サイエンスをそれぞれメジャーとしてもっています。

 前回の記事の終わりに、このようなことを書きました。

昨今ではデザインと戦略の掛け合わせが珍しい概念ではなくなっていますが、だからといって簡単に取り入れられるわけではありません。(中略)業界のベストプラクティスを追求するコンサルティングと、オリジナリティを追求するクリエイションは、そもそもビジネスへのアプローチが異なるからです。

 たとえば自分の専門性がコンサルティングのみである場合、ともすれば「デザインはアウトプットを形成するための手段にすぎない」という考えになってしまうかもしれません。逆に自分の専門性がデザインのみである場合、「コンサルティングはロジックの積み重ねにすぎない」という思考になってしまうかもしれません。このような局面において、知識だけでなく感覚で、両者の相乗効果を理解しているかどうかは、チーム全体のパフォーマンスに大きく影響します。

 それではここから、ダブルメジャーの考えかたをより詳しく見ていきましょう。

考えかた1:共通点を見つける

 専門性というと「ひとつの道を極める」といったイメージがあるかと思いますが、ひとつに絞る必要はないというのが私の考えです。もちろん有限な時間をひとつのことに投じるのは無意味なことではありませんし、漫然と複数の領域に手を出せば「器用貧乏」とか「スペシャリティのないジェネラリスト」になってしまう恐れもあります。しかし、ほかの何かと掛け合わせられる専門性を身につけ、相乗効果を生み出すことができれば、それが結果として「事を為す」近道になると考えています。

 そこで大切になるのが、専門性の身につけかたです。はじめに選ぶ専門性はどのようなものでも構いません。大切なのは、次の専門性を学ぶ際に、どれだけアナロジカルにその領域を捉えられるかということです。アナロジーは類推とも訳されますが、情報や考えかたを相互に紐づけながら物事を理解すること、と言い換えてもよいでしょう。

 デザインの世界で有名な例に、鳥の形からヒントを得た飛行機があります。それと同じようにビジネスやクリエイティブにおいても、過去の経験や情報から大事なことやメカニズムを抽出し、示唆を得て次に活かすことができます。その過程を、自らの専門性を高める中で行うことが大切なのです。

 複数のメジャーをもつ人物の代表格、レオナルド・ダ・ヴィンチの逸話を紹介します。レオナルド・ダ・ヴィンチが美術や幾何学など多くの分野に通じていたことは有名ですが、そのひとつに軍事技術者としての顔がありました。当時の政府が画家を募集した際、彼は自らの推薦状に、画家としての実力に加えて要塞の設計や地図の作成で貢献できることを記したといいます。その結果画家として採用されただけでなく、後に軍事技術者としての雇用も確保しました。(参考書籍:杉浦明平訳『レオナルド=ダ=ヴィンチの手記』(下)岩波文庫 )

 ここでの教訓は、レオナルドがダブル(マルチ)メジャーによってふたつの仕事を得たということではなく、時の政府が欲しがっている情報を察知し、芸術で培った能力を軍事に転用して、当時必要とされた要塞や技術を提供できたことに意味があった、ということです。

 一説によるとこの推薦状を書いた時点でレオナルドに軍事の実務経験はなく、決して「軍事の道を極めた人」ではありませんでした。しかし当時の戦況における課題や必要な情報を正確に把握できていたことで、公的な仕事に道を開き、それによって芸術家としての地位も一層確かなものになりました。

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