――まずは御社の事業概要について教えてください。
エナジーゲートウェイは、東京電力パワーグリッドとインフォメティスの合弁会社として、インフォメティスの電力センサーや機器分離推定技術(※1)を用いてさまざまなパートナー企業と事業を開発し、電力データの社会利用に向けて取り組んでいる企業です。
一方インフォメティスでは、「エナジーインフォマティクス(※2)」をコンセプトに、電力データを収集するためのデバイスの企画・開発や、電力データを保存・分析するためのIoTプラットフォーム運営、分析のコアとなるAI技術の研究・開発、ユーザーに提供するアプリの企画・開発などを行っています。
※1:機器分離推定技術とは、インフォメティスが持つ独自の技術で、家庭の分電盤で測定した電流波形から、AIアルゴリズムによってどの家電が、いつ、どれくらい使われていたかを見える化する技術。対象家電は主要家電のうち、冷蔵庫、待機電力(常に電力消費する家電を含む)、エアコン、炊飯器、電子レンジ、洗濯機、ヒーター・ドライヤー・ケトルなどの高熱家電、テレビ、IHクッキングヒーターなど最大10種類。
※2:電力データをはじめとするエネルギーデータから、見守りや生活の活動ログ、在・不在、電気異常検知のようなことまで様々な情報を得ることを、遺伝子情報などからさまざまな情報を得る「バイオインフォマティクス」にちなんで名付けた造語。
――2021年3月に提供を開始されたスマホアプリ「econowa(エコノワ)」にはどういった特徴があるのでしょうか。
「econowa(エコノワ)」は、家庭に設置された太陽光発電や蓄電池の充放電、家電による電気の使用といった、家庭におけるエネルギーの流れをわかりやすく表示するスマホアプリです。
天気や時間帯によって変わる太陽光発電や蓄電池の稼働状況をスマホアプリで一目で確認したり、消費した電気がどの家電でどれくらい使用されているのかを把握することができます。電気の流れを確認して楽しめるだけでなく、節電に向けた具体的な行動を考えることができる点も特徴のひとつです。
ほかにも「家電のつけっぱなし」や「電気の使い過ぎ」などのお知らせ機能や、「気象警報」などの防災機能も搭載しています。「気象警報」が発令された際には、蓄電池の残量を表示し「このまま使い続けたらどれくらい使えるのか」を可視化するなど、電気という切り口で、安心・安全な暮らしをサポートするためのさまざまな機能を提供している点がeconowaの大きな特徴です。
――本スマホアプリを開発するに至った経緯について教えてください。
従来、電気の見える化アプリは、ウェブアプリケーション「うちワケ」を提供していました。開発した当時はまだ一般家庭に蓄電池の導入は進んでおらず、消費電力の見える化に特化していました。
しかし昨今、脱炭素が社会的にトレンドとなったり、防災意識も高まる中、蓄電池の普及がますます進むと言われています。JEMA 蓄電システムビジョンVer.5(2020年)によると、日本の住宅用蓄電システムの導入ポテンシャルは2021年予測で14万台、2025年には18万台と、年々増加するとされています。
このトレンドの中に大きな潜在的なニーズがあると捉え、蓄電池を導入した家庭で蓄電池をより便利に有効活用できるよう、電気の見える化アプリをアップデートしました。また、多くの方がスマホを利用しているので、ウェブアプリケーションからネイティブアプリにも対応しました。
――スマホアプリ「econowa」の開発にあたり、工夫した点はありますか?
従前は消費した電気代を月1回程度チェックするためのアプリでしたが、家の電気の変化を楽しんだり頻繁に見るためのアプリになるようにUI・UXを設計しました。トップの画面は1分ごとに画面が変化するので、その時々の発電・蓄電・消費の状況がわかります。たとえば、日中は発電の緑色が多く、夜は買電の赤色が多いというように天気や時間によっても変わります。太陽光や蓄電システムは高価な買い物なので、日常から効果を実感できるよう、見て楽しめるアプリにしました。
日常に根差しているけど目に見えず体感しにくい「電力」を視覚で理解できるようにするため、UI・UXデザインの観点では、インフォグラフィックやダイヤグラムデザインを取り入れたデザインを心がけました。また、太陽光発電や蓄電池といった高級な設備を購入したユーザーに使っていただくアプリなので、買った時の高揚感やワクワク感を失わずに使えるような、近未来感のある表現を採用しました。設備導入の効果をみたり、省エネなどの役に立つ必要があるので、機能面も充実させる必要がありました。またかっこいいだけでなく、しっかり活用できるような機能美のあるデザインを目指しています。
――では、開発で苦労した点はありますか?
太陽光発電や蓄電池やV2Hのように設置される機器が複数台あったり、蓄電池の中でも単機能型、ハイブリッド型などにわかれていたりと、設備の稼働状況を表現するパターンが非常にたくさんあった点に苦労しました。また、このような見える化アプリは一般的にまだ普及されているとは言えず、ベンチマークとなるサービスはありませんでした。。そのため、UI・UXデザインの際にはペルソナを設定し、ユーザーの興味関心を調査しながらデザインに反映。ユーザーインタビューの際、ユーザー自身も慣れていない「エネルギーの流れの見える化」を質問する形になるので、私たちの仮説をぶつけながら、自分たちが正しいと思えるデザインを追求しました。
――econowaをこれからどのようなサービスに成長させていきたいですか?
今後は社会的にもますます脱炭素が注目され、太陽光発電や蓄電池が普及していくと考えられます。そして、自宅で発電した電気を自宅で使う「自家消費」をすることが、CO2を排出しないという意味で環境に貢献することにつながります。エネルギーの難しい制度や仕組みを理解していなくても、スマホを入口に、日常生活でどれくらい環境に貢献したかがわかったり、気軽に環境へ配慮していることを感じられるようなアプリにしていけたらと思います。
またUI・UXの観点では、たとえば可視化された情報から高度な分析を楽しむことができたり、省エネ効果や節電効果を見やすく表示するなど、さらに直感的に楽しめるアプリにしたいと考えています。