――まずは御社の事業概要について教えてください。
TISは創業50年の統合ITサービス企業です。クレジットカードなどの金融系システムの開発を中心に、製造、流通、サービス、公共、通信など多種多様な業種にわたる3,000社以上のビジネスパートナーとしてお客さまの経営課題に向き合い、プラットフォームからアプリケーションまでさまざまなシステムを提供してきました。
近年、こういった既存の事業だけでなく、TIS自身がサービスの主体となり、新しいビジネスや価値を生み出していく必要が高まっているとして、2015年に新規事業創出を推進するインキュベーションセンターを設立。同センターが所属するテクノロジー&イノベーション本部には、研究開発に取り組む戦略技術センターも所属しており、ここでの研究の成果をベースとした新規事業企画にも取り組んでいます。
――2021年6月に提供を開始した「XR Campus – ツアー」にはどういった特徴があるのでしょうか。
「XR Campus」はXR技術を使って空間を創造し、コミュニケーションすることを実現するソフトウェアソリューション群です。シリーズとしてさまざまなサービスを今後展開していく予定ですが、第1弾としてトライアルサービスを開始したのが、「XR Campus - ツアー」です。
「XR Campus - ツアー」は、このXR Campusのサービスのひとつで、遠隔ツアー型イベントを実現する空間共有コミュニケーションサービスです。360度カメラで撮影した動画をもとに空間を創造し、そこに利用者がアバターとして入り、コミュニケーションをすることが可能です。
イベントの主催者は、事前に用意した複数の動画を1クリックで切り替えながら説明できるので、リアルのツアーと同様、複数の場所を移動しているかのように案内することができます。
同じ空間を見ながら話すことが可能なため、場所や空間の説明が必要な一般的なツアーはもちろん、ショールーム案内や工場や施設などの見学などで活用していただくことを想定しています。
コロナ禍になってから、こういったイベントが中止になり、代替としてオンラインミーティングサービスを使われている場合が多いように思いますが、平面画像では奥行きがわかりにくかったり、自分の見たい方向を見ることができないなど、リアルの体験と比較すると不足があると感じる部分もあるのではないでしょうか。
XR Campus -ツアーでは、参加者が自身の操作で360度の空間を移動したり、アバターを表示することで実空間に存在する感覚を得ること、またリモートでも臨場感ある体験が可能です。また、ヘッドマウントディスプレイなどの特別な機器も必要なく、パソコンやスマホにアプリをダウンロードすることで参加することができます。
――本サービスを開発するに至った経緯について教えてください。
2017年からTISでは、XR技術をベースとした遠隔コミュニケーションをテーマに、R&D部門で研究開発を実施してきました。
コロナ禍となった2020年、実証実験段階だった接客する人がリモートで操作する遠隔接客のサービスを展示会で出展したところ、サービスをご覧になった複数のお客さまより「接客する側だけでなく、利用者もリモートで参加できるシステムがほしい」という声をいただきました。
こういった要望の後押しをうけ、また、コロナ禍でも安心安全にお客さまとコミュニケーションをとれる場を提供し社会活動の継続に寄与したいという思いから、XR Campus ツアーの開発に至りました。
――本サービスの開発にあたり工夫した点はありますか?また苦労したことがあれば教えてください。
「現実空間をベースとした仮想空間を見ながらコミュニケーションする」というコンセプトを実現するための構想から試行錯誤しました。
現実空間を共有できるXR系のサービスとして、構想を考え始めた段階ですでに存在していたのは、360度動画のビューアーと、現実空間を3Dモデル化して制作した仮想空間にアバターで入るサービスのふたつでした。
360度ビューアーは、仮にほかの人と同時視聴をしていたとしても、他者の存在を感じにくく、「誰かと一緒に同じ空間にいる」という感覚を得ることは難しい。また、3Dモデルの空間にアバターで入るタイプのサービスだと、3Dモデルに制作コストがかかったり、物の配置が変わるなど現実空間の状況が変化した場合、3Dモデルにその状態を即時反映することができないといった課題もありました。
これらの課題をふまえ、「なるべく低コストで、現実に存在する空間をベースとした仮想空間を作りだし、リアルタイムで情報を反映できるサービス」を形にしたのが、XR Campus - ツアーです。
空間制作コストが抑えられたことで、XRサービスとしては比較的安価で始められること、また空間モデルの制作期間なども必要ないことから、2Dでは臨場感に欠けるがコストは抑えたいといった声や、ハイクオリティなVRでなくていいからすぐに始めてみたいといったお客さまにも利用していただきやすいのではないかと考えています。
UXデザイン面では、展示会でいただいた意見をもとに、「主催者も参加者も双方が遠隔で参加し、同じ空間を見ながら案内できる」という機能を実現するべく開発を始めました。
検討や調査を進める過程で、「コミュニケーションに飢えている人が多い」というウィズコロナ期に関する分析結果が目にとまり、コロナ禍でもインタラクティブにコミュニケーションをとれる場を提供したいと考えるようになりました。そこで盛り込んだのが、「参加者同士が同じ空間でコミュニケーションができる」というコンセプトです。これにより、主催者と参加者だけでなく、参加者同士が話をしながら参加できることが、魅力のひとつとなっています。
一方苦労したのは、50人での同時接続の実現と、360度動画配信の品質を保つという2点です。
当初、エンジニア3名の体制で開発を始めましたが、今年2021年に入り、サーバーサイドの開発・構築、動画コーデックのライブラリ開発といった経験をもつエンジニア数名がチームへ合流。開発体制を強化しました。これにより、継続的な負荷テストによる検証と改善を実施し、無事トライアル版をリリースすることができました。
――XR Campus -ツアーをこれからどのようなサービスに成長させていきたいですか?
今年2021年10月以降にXR Campus -ツアーのベータ版リリース、次年度には正式版のリリースを予定しています。今までに体験した方からの要望も反映し、リアルタイム配信機能や画像の共有機能なども追加する予定です。
また、XR Campusシリーズとしては、音楽ライブイベント、地域の大型イベントや展示会・即売会などに活用できるハイブリッドイベントサービスを開発中です。こちらについても、2021年内に実証実験を行い、2022年にはトライアル版をリリースできればと考えています。
今後もTISではXR技術を使い、ウィズコロナ、アフターコロナの世界における社会課題を解決するサービス開発を進め、TISのXR事業が新しい社会の中で多くの人に活用される未来を目指していきます。