――まずは御社の事業概要について教えてください。
それぞれ20年以上の実績があるデザイン会社と、マーケティングリサーチ会社が合併し、2014年に誕生した会社です。おもにパッケージデザイン開発を行うデザイナーが約30名、マーケティングリサーチを行うリサーチャーが約30名で構成されており、パッケージデザインに関しては年間200商品程度お手伝いをしています。また、両者の強みを活かし、パッケージデザイン評価において日本一になるよう、研究と実績を積み上げています。
――2021年9月に提供を開始した「パッケージデザインAI」にはどういった特徴があるのでしょうか。
これまで、パッケージデザイン開発では、最終段階で実施する消費者調査と、その結果をもとに行うデザインのブラッシュアップに2~3ヵ月ほどの期間を要してきました。
今回提供を開始したパッケージデザインAIは、生成と評価を繰り返し、1時間で1,000のデザイン案を創出。従来のデザイナーがデザインを開発する方法では不可能だった、「短期間で多くのデザイン数」を生み出すことが可能です。同時に、消費者の評価が高いデザイン案を選択することができるので、大幅な時間の短縮とコスト削減にもつながります。
消費者の評価が高いデザイン案を選択できるのは、弊社が2015年から実施してきた920万人分の消費者調査の結果をAIに学習させていることで、生成と同時に評価を実施でき、優れたデザイン案を作りだすことが可能になるからです。評価をするAIについては、東京大学と共同研究も行い、精度の向上に努めてきました。
ウェブにデザイン案をアップすると、まず100案を生成し、評価。その中から好意度スコアが上位のものを自動でピックアップし、さらに100案を生成してまた評価を行います。この生成と評価を10回繰り返し、最終的には1時間で1,000案を生成。好意度スコアが高いTOP100の案と、ランダムで選んだ100案を表示します。「おいしそう」「かわいい」「シンプル」「高級感・上質感」など19のイメージワードでランキングづけをすることも可能で、商品のコンセプトに合致したデザインを選んだり、デザインアイディアを広げることもできます。
――本サービスの開発に至った経緯や開発体制について教えてください。
AIの開発はメインで副社長の坂元が担当し、それ以外にもリサーチャーやデザイナーが関わるなど、システムはすべて自社開発をしました。
プラグは日本でもっともパッケージデザインのことを知っている企業になるべく、2015年から毎年春と秋に、大規模な新商品のパッケージデザインの好意度ランキングを実施してきました。1回につき600ほどの新商品のデザインを消費者に見てもらい、その好みや理由を聴取するものです。複数年実施したことで、4000以上の新商品の情報を集めることができました。
情報がたまったことをうけ、AIを使えば、新商品の好意度の予測できるのではないかと考えたことを機に、まずは2019年にパッケージデザインAIの評価システムを開発しました。その後さらに研究を続け、評価だけでなく生成もできるようにしたものが今回のサービスです。
プラグでは日々、デザイナーがデザインを作り、リサーチャーがリサーチをお手伝いしています。そういった中で、デザイン制作の後半のプロセスでよくある、差が少ないデザインを複数並べて調査をしたり、修正を繰り返したりといったプロセスを、AIで短縮できないだろうかという思いがありました。今回のデザインの自動生成はそういったデザインプロセスの短縮できる部分をサポートし、マーケターやデザイナーにより多くの時間を作りたいという思いから開発が進みました。
この生成に関しては、デザイン部門トップのデザイナーが、デザインとして完成度の高い生成ができるよう開発に関わりました。デザイン部とリサーチ部門があるプラグだからこそ、完成したAIサービスだと自負しています。
――本サービスの開発にあたり工夫した点はありますか?また苦労したことがあれば教えてください。
AIでデザインを自動生成すると、どうしても違和感があるデザインができることもあります。普段デザイン開発を担当しているデザイナーが、その違和感の理由をAIに学習することで、生身のデザイナーが作成したようなデザインをAIで生み出せるようになりました。
一方、開発で苦労したのは、完成度の高いデザインに仕上げることです。開発当初に生成されたデザインの中には当然良いものもたくさんありますが、デザイナーから見ておかしいと感じるものも存在しました。なぜおかしいのかという点をデザイナーに徹底的にヒアリングし、それをプログラムに組み込んでいく。その作業を繰り返してデザインの品質を高めていくという工程にはとても労力がかかりました。
――パッケージデザインAIをこれからどのようなサービスに成長させていきたいですか?
年2回の大規模な消費者調査は今後も継続し、その結果をAIに学習させていきたいと考えています。これにより評価をするAIの精度は向上しますし、現状はビールや飲料、菓子、調味料、、パスタソース、医薬品、ビジネス書、化粧品をはじめとする、51のカテゴリーで使用可能ですが、さらにその数を増やしていく予定です。また、AIのアルゴリズムは完成しているので、海外展開も視野に入れています。
パッケージデザインAIは、デザイナーやマーケターがより自身の業務に集中するための時間を作り出すことに活用できるサービスだと考えています。今後も、より良い商品開発のサポートをしていけたらと思います。