次のステージは「クリエイティブDX」 Adobe Senseiから考える、AIとクリエイターの関係とは

次のステージは「クリエイティブDX」 Adobe Senseiから考える、AIとクリエイターの関係とは
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 コロナ禍でいっそうデジタル化が進んだ今、クリエイターに求められることとは。必要となるスキルはなにか――。本連載では、データやマーケティングをキーワードに、クリエイターを取り巻く環境や今後の変化について考えていきます。執筆を担当するのは、アドビの阿部成行さん。第5回のテーマは「AIとクリエイターの関係」です。

クリエイターエコシステムが育んだAdobe Sensei

 PhotoshopやIllustratorがクリエイターの道具として定着した今、クリエイターの皆さんがデジタルツールを使って仕事をすることに抵抗を感じる場面は、ほぼなくなったのではないでしょうか。そうしたテクノロジーの活用が進む一方で根強く残っているのが、「AIが人間の仕事を奪う」と問題視する声です。

 実際のところ、AIのような新しいテクノロジーを試すのが大好きで「AIって、結構使えるな」と思った人もいれば、まだ馴染みがなくて「もしかして私の仕事はなくなるの?」と心配する人もいるといった具合に、クリエイターの皆さんがAIに抱く印象はそれぞれ違うことでしょう。とは言え、今の仕事のやりかたがより効率化される方向に進むことは確実です。

 1982年12月に創業したアドビにとって、2022年は会社設立から40周年という節目の年にあたります。この40年の歴史を振り返ると、クリエイター向けのソフトウェア製品の提供を通じて、皆さんが参加する一大エコシステムをつくってきたことが、私たちのビジネス成長の原動力になっていると日々痛感しています。実は本社だけでなく日本法人も設立から30周年を迎えます。日本は人口比で見てもクリエイターが多い国でもありますし、これからも一緒にクリエイティブ界隈を盛り上げていきたいと考えています。

 過去数回の熱狂と幻滅を経て、AIは本当の意味で“使える“テクノロジーに成長しました。アドビがAIと機械学習のフレームワーク「Adobe Sensei」をお披露目したのは、2016年のイベント「Adobe MAX」です。

 Adobe Senseiの登場は突然のように思われたかもしれませんが、そのルーツはかつてAdobe Magicと呼ばれていた「魔法のような効果」を実現する機能群です。長い時間をかけて蓄積された道具を操る数々の技巧を誰もが利用できる機能として提供する――。こうしたコンセプトを受け継ぎ、アドビのAI、機械学習の開発は発展してきました。つまりAdobe Senseiは、ユーザーである皆さんのクリエイティブ作業を通じて得たさまざまな集合知を学習材料にしているのです。この成り立ちを考えると、今年で6歳になるAdobe Sensei も、アドビの歴史とともにあるクリエイター達のデータを学習してきた、意外にも成熟した存在なのです。

 ではAdobe Senseiは実際にどのようにデータを学習しているのでしょうか。

 たとえばAdobe Stockであれば、検索をより良いものとするためにタグを付けて、コンテンツをアップロードしてもらっています。この仕組みを利用し、Adobe Senseiはそのコンテンツのテーマと用途を結びつけて学習しているのです。クリエイターの作業意図と作業プロセスを紐付けて学習できることから、クリエイターの皆さんの普段のツールの使いかたも、Adobe Senseiにとっては大切な学習データです。Adobe Senseiは、クリエイティブに特化した学習を長期間にわたり続けているのです。

エコシステムの中に入る意味

 もう少し具体例を見てみましょう。あるクリエイターがPhotoshopで「ウェディングドレスを着ている女性の写真」を編集しています。PSDファイルをクラウドにアップすると、Adobe Senseiは画像解析を行い「これはウェディングドレスを着ている女性」であることを理解します。さらにファイルの中には「ドレスの白さを調整した」「女性の肌の質感を変えた」などの履歴が残っていますから、これも学習材料です。

 こうした学習を繰り返すうちに、Adobe Senseiに違う「ウェディングドレスを着ている女性の写真」を渡し、「これをキレイにしておいて」と頼めば、期待した結果が返ってくるようになる、ということも近い将来可能になるでしょう。つまり、大規模にデータを学習すると、標準の型のようなものが見えてくるわけです。このようなクリエイティブプロセスを省力化する発見は、Adobe Senseiの得意とすることのひとつです。

 そう聞くと、「アドビは私たちの作業を裏で盗み見ているのか」と感じる人もいるかもしれません。たしかにそのような側面があることは否定しませんが、アドビの究極の目標は「Creativity for All」。誰もが品質の高いクリエイティブを作れる世界を実現することです。

 その意味で、AIという集合知のエコシステムの中に入ることは、自分の作業を学習させることを許すこと。先の例で言えば、まったくPhotoshopを使ったことのない人でも、熟練のクリエイターと同じ結果を得ることができるということです。それを嫌だと拒否することもできますが、そのエコシステムの中にいることは、自身の仕事のやりかたがほかの誰かの役に立ち、それが回り回って自分の生産性を高めることになる。先輩から後輩へと知恵のバトンを渡すことにつながると考えることもできるように思います。

 それが今のAdobe Senseiの仕組みで、アドビの40年間にわたるクリエイターの皆さんとの関係性がその実現の原動力になっています。

 このように考えていくと、冒頭の「AIで私の仕事がなくなるのではないか?」の疑問には、「あなたが提供している価値による」と答えることができそうです。

 お客さまに提供する価値の対価が「労働量」にもとづいていないか、一度自身に問いかけてみると良いかもしれません。仮に、現在行っている作業量がAIで100分の1になったとしても、お客さまにこれまでと同額の請求書を出せるのか――。もちろん、クリエイティブの仕事における報酬は、労働量に比例する類のものではありません。その意味で、仕事がなくなる心配は不要ですが、AIがプロセスの面倒な部分を肩代わりしてくれる世界が訪れたあと、クリエイターとして提供できる価値が改めて問われることになるでしょう。

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