社内、社外、お客さま、それぞれとの共創を円滑に進めるには そのポイントをイラスト活用から考える

社内、社外、お客さま、それぞれとの共創を円滑に進めるには そのポイントをイラスト活用から考える
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 イラスト、デザイン、コンサルティングの3つを柱として活動するユニット「rala design」。代表兼デザイナーをつとめる青木孝親さんが、長年イラストレーターとともに二人三脚でプロダクトづくりをしていくなかで見えた、イラストとの付き合いかた、イラストの楽しさなどについてお伝えします。第5回は「共創」がテーマです。

 今回は、共創をテーマにお伝えしていきたいと思います。

 共創とは、利害関係者とともにひとつの成果物を創り出すことを指します。一般には、自社で商品開発やサービスの創出を完結させることが多いと思います。一方、フリーランスの方の中には、自分の持っているスキルを他社の商品開発やサービスの一部として組み込んでもらい、コラボレーションの形で事業に参画している人もいるでしょう。こうした事業者の枠を超えて新商品・新サービスの創出に参画する事例は、「目新しい取り組みとしてメディアに紹介されるフェーズ」は終わり、「共創をよりスムーズに、より安定的に推進する事例を紹介するフェーズ」に歩みを進めていると感じます。

 私たちrala designでは、デザイナーとイラストレーターのふたりのスキルを組み合わせて一心同体のように創作を行っていたため、その精度を高めることができれば、まるでひとりの人格が生み出している作品かのように感じてもらえました。普通はものづくりにおいて、作り手の規模が小さくなるほど作家性が際立ちますし、多くの人が関わって新商品を作る場合には、会社としてのアイデンティティが感じられるようになっていきます。

 市販品の多くがいくつもの会社や人の手を経てユーザーのもとに届くことを消費者は知っていますので、作家性のようなものを感じることはあまりないと思います。逆に、ひとりの作り手が生み出したものに作家性を感じることは当たり前だと捉えており、作り手も消費者もそれを魅力として利用したり、感じたりしています。

 音楽などはその最たる例で、ピアニストのソロ・コンサートはひとりの作家性に惹かれてチケットを購入します。では、作り手がひとりからふたり、ふたりから三人へと増えていったら、その作家性はどうなるでしょうか。

 さきほど「まるでひとりの人格が作品を生み出しているかのよう」と書いたのは、ふたりの演奏家が完全に調和して演奏している状態を指しています。ふたりのスキルの掛け合わせが混然一体となって作品に表れてくれば、ひとりの人格による創作物のように知覚する、ということです。

 これは「何人までの参加ならば、創作物にひとりの作家性を感じるか」、または「どのようなスキルの組み合わせならば、人格がひとつに感じる創作物を作り出せるのか」というテーマを生み出します。そしてこのテーマは、共創の成否を左右する根幹の課題であり、作家性の統一はブランディングにも通じていくものであると私は考えています。

共創によるものづくりが生む、人格が“ひとつ”となるプロダクト

 共創は人によって定義や捉えかたにバラつきがあるため、私自身もその輪郭を認識しづらいなと感じています。そこで共創の規模レベルがイメージしやすくなるように、私はオーケストラによるクラシックコンサートを頭に浮かべて整理しています。

 オーケストラには、バイオリンのように同じ楽器の複数人が協調して演奏するものもあれば、指揮者のようなひとりしかいない役回りもあります。そして会場には観客もいて、静かに聴き入る雰囲気もあれば、手拍子で演奏に参加することもあります。

 「ふたりのスキルの掛け合わせが混然一体」となる状態であれば、指揮者ひとりとバイオリンひとりが演奏している様子を想像してみてください。この場合、演奏の精度や表現のクオリティが高まると、この美しい旋律を生み出しているのが指揮者なのか、バイオリニストであるのかが判別できない状態となり、「完全にふたりのスキルが融合した演奏」に聴こえると思います。

 rala designでも、構図や魅せる仕掛けを担当する私と、絵のテイストや空気感を描くイラストレーターのふたりで役割分担をしていたのですが、完全に融合したイラストに仕上がったときは、ほとんどの人がふたりの共同制作であることに気付きませんでした。

技術面のすり合わせをしてこそ生まれる共創

 もしこれが、ふたりのイラストレーターがひとつのイラストを描く、という構成であったらどうでしょうか。そこでは筆使いや色感覚など、筆致の高度な統一スキルが要求されることになります。ふたりのバイオリニストが一緒に演奏する場合、完璧に息を合わせないと調和した演奏にならないことは想像に難くないでしょう。

 では、主題担当と背景担当といった分担をした場合はどうでしょうか。バイオリンとフルートの関係性を想像してみると、この場合はいかにお互いが一致して演奏するかよりも、互いに協調しながらハーモニーを奏でることに重要度が移ります。さらに演奏者が増えてオーケストラ規模になれば、全体が協調するように細心の注意が必要になるため、その大変さを想像すると、ただただ感心するばかりです。そして、ひとつの作品で全体が協調したとしても、作品をいくつか積み重ねていけば“ブレ”が目立つようになりますので、コンサートで演奏する曲目すべてが調和するように意識する必要が出てきます。

 ただし、これらはまだ身近な者同士による共同制作の範疇です。共同制作による創作を安定させたうえで、さらに社外との共創に取り組むためには、どんな点に注意すれば良いのでしょうか。

 私は、外部の人と共創する時には「取り組む前の相互理解」が重要だと考えています。具体的には、共創チームとなるメンバー間において「相手に求めているもの」「自分・自社が提供したいと思っているもの」「メンバーが持っているものでは埋まらない隙間への対応方法」などについてコミュニケーションをとり、その記録を共有しておくことです。

 とくにクリエイティブにおける共創は、スキルや感情などの人的要因に大きく影響されるため、ことが上手く運ばない時にはメンバー同士の印象が悪くなってしまい、取り組み自体が崩壊してしまう可能性があるからです。

カギを握るのは進捗管理

 共同制作においても、作品にひとりの人格が感じられるようなクオリティまでもっていくのは骨が折れます。参加メンバーの意見に右往左往し、自分の能力を活かしきれずにブレてしまうことは往々にしてあるでしょう。それを乗り越えて社外の人とひとつの作品を創り出そうとするわけですから、共創は“ブレ”どころか“ブレブレ”となり、対応を迫られるのは必至です。

 「この仕事は相手のほうが得意だろう」と確認もせずに期待したり、自分がやろうと下準備を進めていても、ほかのメンバーがイメージと異なる道筋を作ってしまったり、はたまたゴールや終わりかたを設定していないがために、迷走を長引かせてしまったり……。そうした“ブレブレ”や“ズルズル”になってしまった共創を“安定”へと引き戻す役割を果たすのが、先ほどの「コミュニケーションと記録の共有」です。

 参加メンバーが共創の開始当初のスタンスを取り戻すことができれば、お互いに機嫌を損ねることなく仕事を継続できるかもしれません。これはあくまで取り組みかたの話であって、お互いのスキルが満足のいくレベルに達しているか、相手の仕事のスピード感覚が自分の許容範囲内なのかなど、身の丈と企業風土に起因するつまずきポイントにも注意が必要です。

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