クリエイターの立場からみた、生成AIにまつわる著作権の問題点
――まずは柿沼さんのご経歴と、AIに興味を持ったきっかけを教えてください。
2000年に弁護士登録をし、現在23年目です。最初の15年ほどは、交通事故関連の仕事など個人の方がお客さまでした。著作権関連も扱うことはありましたが、そこまで数は多くなかったです。
8年前に現在の事務所を立ち上げてからは、スタートアップなどの企業を対象に仕事をするようになったのですが、AIに興味をもったのは5年ほどまえ。「人工知能と知的財産権」がテーマの講演録を見た際に、これからとてもおもしろくなる領域だと感じ、勉強を始めました。そんななか、人工知能学会が主催する年に1回の全国大会があったため、会場に展示されている企業ブースに、「AIに関して何かお困りごとはありませんか?」と名刺を片手に飛び込み営業をしてみました。すると、物珍しさもあったのでしょう、興味を持ってくれる企業も多かった。そこから情報を集め情報発信を始めたところ、問い合わせが増えていきました。
AIに興味を持つ人が増えたきっかけのひとつとしては、2018年に経産省が「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」を出したことが挙げられるでしょう。このころから、理系の人だけではなく、一般のビジネスパーソンでもAIに興味を持つ人が多くなった印象があります。
――画像生成AIの著作権について、どのような点が議論のポイントになっているのでしょうか。
これは、誰に向けた話であるかによって論点が変わります。たとえば、一般の人なのか、プロのクリエイターなのか、ゲームなどを開発するエンタメ系の企業なのか。それぞれ問題が異なることをまずはおさえる必要があります。
クリエイターの立場に絞ってみると、問題点は大きくふたつあります。ひとつめは、「AIを使った場合、作品には著作権が発生するのか」という点。たとえばプロンプトを活用して作品を制作した場合、著作権が発生しないのであれば、その作品を誰かに真似されても文句が言えないことになります。あるいはクライアントから依頼を受けて納品した制作物であっても、もし著作権がなければ、その制作物を第三者が模倣したときに、権利を主張できない可能性が出てきます。
ふたつめは、「著作権侵害を引き起こす可能性がある」こと。たとえば、ある画像をAIに入力して画像を作成する「Image-to-Image」という手法がありますが、もとの画像として他人の著作物を用いれば、そのような手法で画像を作成して利用することは、通常は権利侵害になります。「AIを使えば大丈夫だ」と誤解されていることもありますが、そうではありません。
また、一般的には大量のデータがAIの学習には使われており、ごく稀に学習元のデータに酷似した出力を生成してしまうことがあります。可能性は非常に低いのですが、ゼロではありません。AIの使用者はそれを知り得ないため、これが著作権侵害に当たるかどうかは有識者でも意見がわかれており、まだはっきり定まっていません。
ただし、注意すべき点がふたつあります。まず“意図的にプロンプトを工夫して”有名な人の絵と似せるようなアプローチを取っている場合、侵害に当たる可能性が高いことはおさえておきましょう。さらに、特定の作家のデータのみを学習したような、特別な学習を行ったAIを使って作品を作成・利用することも著作権侵害につながる可能性が高い点にも留意する必要があります。