“良い写真”のためのコミュニケーションとは AD/コピーライター/フォトグラファーが徹底解説[座談会前編]

“良い写真”のためのコミュニケーションとは AD/コピーライター/フォトグラファーが徹底解説[座談会前編]
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 「経験も知識もないのに、仕事で撮影のディレクションを任された」。そんなとき何から手をつけるべきでしょうか。撮影ビギナーの方に向け、デザイン会社・コンセントのデザイナーやディレクターが普段業務で実践していることや考えかたなどのノウハウを紹介してきた本連載も最終回。「企画編」「準備編」「撮影当日編」と前回までの3回で共通していたチームワークやコミュニケーションの大切さ。「大切なのはわかったけれど、具体的にどうすればいい?」。そんな疑問の解決のヒントになるよう、実際に撮影プロジェクトをいくつも一緒に担当してきたアートディレクター、コピーライター、フォトグラファーの3名による座談会で、「良いチームワークを生むための、具体的なコミュニケーションの方法や考えかた」に迫ります。今回は座談会の前編です。

座談会メンバー

鹿児島藍(コミュニケーションデザイナー/アートディレクター、写真左)

株式会社コンセント所属。さまざまな撮影プロジェクトにアートディレクターやデザイナーとして参加し、事前のビジュアルコンセプト設計から写真のクオリティ判断をはじめとした撮影現場での全体の指揮までを担当することが多い。

千葉聖子(コンテンツストラテジスト/コピーライター、写真真ん中)

株式会社コンセント所属。インタビューの撮影から、モデルを起用した製品プロモーションのための海外撮影のコーディネートまで多様な経験あり。コンテンツの企画立案やストーリー設計、ロケーションコーディネート、撮影現場での進行・品質管理など撮影におけるあらゆるタスクを担当。

田村昌裕(フォトグラファー、写真右)

都内スタジオ勤務後独立。 ファッション、料理、旅などのテーマを中心にジャンルに限らず撮影を手がける。『FUDGE』『kiitos』など雑誌の表紙やタレント・モデルの書籍の撮影経験も豊富。目指している写真は 「想起させる写真」。暗室・アトリエ・撮影スタジオを備えたマネジメントオフィス「FREAKS(フリークス)」を主宰。

さまざまなオーダーを受けるフォトグラファーの本音とは

よくある「少し引いて撮ってほしい」って、実は難しい

千葉 今回は、良い写真を生むためのチームワークやコミュニケーションについて考えていきたいと思います。私と鹿児島が所属しているコンセントのメンバーからも事前に声を集めていたので、いくつか例を挙げながら進めていきましょう。最初のテーマは「フォトグラファーさんとのやりとりにおける工夫」です。

Q. フォトグラファーさんとのコミュニケーションで工夫したり大事にしたりしていることは?

コンセントメンバーの声(1)
「レイアウト時の写真の縦横比率はマストで伝える。トリミングで調整できるように、やや引いて撮ってもらうこと」

私も長年撮影に携わっていますが、「寄りで撮っちゃった……」みたいなことは結構あるんですよね。

鹿児島 あるある!「しまった」ってなりますよね(笑)。たとえば写真の使用先がウェブメディアの場合、パソコンとスマートフォンで使う場合、などではそれぞれ画角が違うため、あとから「上下や左右の余白が足りない」といったことが起きてしまうんですよね。そのためデザイナーが事前に両方検証しておくわけですが。

田村 「ちょっと引いて撮っておいてください」はほぼ毎回といっていいほど言われる言葉です。ただ、実はそれってすごく難しい。フォトグラファーは身体行動をともなって現実を撮るものだからです。構図の中で数ミリ単位の微妙な動きなどで違いを出して、その写真で伝えたいことを表現しているため「引いておいて」と言われるととても撮りづらくなります。

とはいえ、フォトグラファーが写真単体での構図などにこだわりすぎてしまうと、デザイナーさんがレイアウトを組みづらくなってしまうという事情もわかります。だからこそ両者で絶対話し合うべきところなんです。

デザイナーさんに使いたいイメージを聞いて話し合い、引いて撮ってもなおイメージしていることが実現できる構図を目指す。フォトグラファー個人として伝えたかったことはちょっと欠落してしまうんだけれど、反対にその写真が社会性を帯びていくようなトランスレーションの構造のひとつになっていくということです。

いちばんの近道は、まず「写真をどう使いたいのか」を共有すること

千葉 私も撮影のときは、写真をどのサイズで使用するかを必ず最初に伝えるようにしています。そうすると、フォトグラファーさんがチェック用のモニターに指定したトリミングサイズのフレームを用意してくれて、実際の縦横比率で使うときのイメージをその場で確認できるようにしてくれるんです。

ほかの言いかたをするなら、「使うサイズが未定のまま現場にいる」状態はつくらないほうが良いと思っています。最終的に変わることもあるかもしれないですが、想定する使用イメージをフォトグラファーさんと共有し、そのうえでコンテンツ全体としての完成形を一緒に目指すコミュニケーションが大切だなと。

鹿児島 やはり、最終的な画角にトリミングしたものを一緒にその場で確認するのがいちばん良いですよね。そのためにフォトグラファーさんとデザイナーがお互いのベストを尽くすわけです。

先ほどのパソコンとスマートフォンの話に戻ると、ユーザーが見るデバイスの状態によって表示サイズが変わってしまうことは仕方がないわけですが、それについて田村さんはどう考えていますか?

田村 構図だけでは伝えたいことが伝えきれなくなるため、フォトグラファーの間では「トーン」を重視する流れになってきているように思います。どういったシチュエーションで撮るのか、色味や明るさ、質感などの雰囲気といった「トーン」によって、フォトグラファーは自分なりの表現を出すやりかたにスイッチしてきている。

そのため「引いて撮っておいてほしい」という要望もそうですが、それ以外にも「こう撮りたい」「こう使いたい」などはフォトグラファーに伝えてもらったほうが良いと思います。

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