「事業をまったく新しい次元に昇華させる」AIと人間がすべきこと
一方、「生成AIは人に近いもので、人間ほど優れたものではない」という考えかたも必要だと河野氏は進言する。人間は、あらゆる汎用性と多様性をもった存在でありながら、特定の項目についてはエキスパートになることもできる。このふたつをAIが両立することは「まだまだ難しい」というのが河野氏の考えだ。
「やはり人間にできることはまだたくさんあります。決断や判断、そしてコミュニケーションは人間が行う。これは数十年先まで、重要なポイントになってくると思っています。
そのため、AIを活用し今以上にさまざまなことができるようになっていくと、もちろんリスクもありますが『人間の創造性』は再評価されてくるはず。つまり人間が人間らしく、やるべきことに専念でき、AIをコントロールしながらその周辺領域をまとめることができれば、まったく新しいビジネスモデルが生まれたり、現在の業務もまったく新しい次元に昇華されたりする可能性がある。これが、僕がいちばん伝えたいことです」
実は設計ツール「CAD」が登場した際にも、人間の仕事が全部奪われてしまうのではないかと言われていたが、いざCADが利用され始めると、スケッチやプロトタイプの作成といった作業がおざなりになってしまい、大幅に手直しする時間が新たに発生。まったく効率化はされず、イノベーションも起こらなかった。そのためまずはベースとなる部分を人間がしっかりつくり、そのあとの工程でCADを活用する、つまり「人とテクノロジーを融合する」ところに結果としては収まったのだ。
それらをふまえて河野氏は改めて、人間とAIそれぞれがやるべきことを提示した。
「このなかでも人間にとってとくに大切なのは『責任をとる』こと。これは間違いなく人間にしかできないことだからです。一方、AIが得意なこととして、24時間365日稼働できる、何度やり直しても疲弊しない、膨大なアウトプットを出せるなどありますが、なによりも『精神的なマネジメントが不要』である点は大きなポイントでしょう。こういった部分を上手く使いこなすことで、ビジネスや事業をまったく新しい次元にまで引き上げることができるのではないでしょうか」
最後に河野氏が触れたのは「倫理」の問題。日本人の特性も交え次のように語り、セッションを締めくくった。
「『進化とは無秩序な変容に過ぎない』という言葉をダーウィンが残しています。つまり、進化=良いものになるのではなく、「無秩序」の先に秩序が構成されるという意味です。つまり、混沌とした状態のなかでもいろいろなものに取り組みながらだんだんと整えていく。それがとても大切なのだと思います。そして、これは日本人が得意なことなんですよね。多くの自然災害がある日本では、アンコントローラブルな状態に陥っても、諦めずに何度も新たな秩序を生み出してきた。それが、日本人の強い武器であるわけです。
今、国策としてAIを導入するなど、各国がさまざまな施策を行っていますが、『クリエイティブAIディレクター』が日本発で世界の秩序になるような時代になればと思っています」