“人間が作ったことそのもの”がブランドになる時代へ
それにともない、「人間が作ることの価値」が非常に上がっていくと河野氏は予測している。
「『人間の創造性』への再評価が進んでいき、アルゴリズムにはない価値がとても重要になってくると思います。アウトプットのクオリティがどうかよりも、“人間が作ったことそのもの”がブランドになるのではないでしょうか」
現時点では、AIを活用しても望んだクオリティに到達していないものが生成されるケースも多い。しかし、そういった「質」以上に、「AIで作ったものを低く評価してしまう」といった現象がすでに起き始めているのだ。
その表れのひとつとして挙げたのは、2023年10月に販売が開始されたカメラ「ライカM11-P」。コンテンツがどのように作成または変更されたかを細かく公開する「コンテンツクレデンシャル機能」を搭載していることが話題を集めた。クリエイターが自身のアウトプットであることを適切に表明できるため、誰が撮影したものなのか、はたまたAIで作られたものなのかなど、履歴を残すことが可能だ。これも、作り手がAIであるのか、人間であるのかが、制作物の評価に影響を与えているからなのかもしれない。
「そういった部分をふまえると、人間に求められるのは、AIがクリエイティブ制作やクリエイティビティの拡張を支援する際に、それをコントロールすること。そして、そんなAIにおける“管制塔”の役割を担うのが『クリエイティブAIディレクター』という存在です」
クリエイティブディレクターとは、アウトプット全体の質を監督し、クリエイティブの総合的な責任も負う役割だ。そのため長年の下積みを経てたどり着く仕事であるという印象を持っている人や、その肩書きを目指し研鑽を積んでいる人もいるかもしれない。
しかし今後は、「全員がクリエイティブディレクターにならなければならない時代が訪れる」と河野氏は言う。
「どんな仕事でも、基本的に人は自分の思考の癖に縛られています。つい貧乏ゆすりをしてしまうのと同じように思考にも癖があり、ほぼすべてのアウトプットで表出しています。それがときには『らしさ』としてポジティブな評価につながる一方、アウトプットの幅を狭めている可能性もある。そのため、まったく別の視点を取り入れる必要があるのです」
たとえば建築家の巨匠などは、抱えていたたくさんの弟子たちが出してくれたアイディアによって新しい風を取り入れていた面もある。大御所ほどネタが切れることがなかったのは、そういった弟子たちのアウトプットによるものだとも言われている。
「AIを活用すると、そういった弟子がたくさんいるかのようなアウトプットが可能です。つまり、AIが生成したものを自分が採用し、それをベースにつくっていくと、自分だけでは辿り着けなかった新しい領域に手を伸ばすことができる。さらに自らがアウトプットをするだけでなく、それらのAIをコントロールする。それが、クリエイティブディレクターがAIを活用する意味なのではないかと思っています」