デザインにおける生成AIの問題点と課題
今もなお、生成AIの分野ではさまざまな疑問と議論が投げかけられています。生成AIは人間の創造性を奪うものなのでしょうか。これらの点について、まずは改めて私の見解を書いてみます。
AIにブランドを作ることはできるか
生成AIがいくら緻密な絵を出力したとしても、たとえばCHANELのようなハイブランドが、そのままそのイメージをブランド広告として使うことはないでしょう。時代を象徴するブランドイメージとは、コンセプト・メッセージと説得力のあるビジュアルが結びついて初めて生まれるものであり、「ビジュアル自体がすごい」というだけでアイコンになることはできないのです。
新しいトレンドを作ることができるか
AIは学習した素材をもとに作ることしかできません。新しいトレンドは、文化のなかから複雑な経路をたどって生まれてきます。違和感や斬新さをともないながら、ときには予想を外れた場所からやってくることもあります。こうしたトレンドデザインをつくっていくのは人間の役割でしかないでしょう。
生成AIは盗人なのか
生成AIは便利なツールなのか、人の創造を盗んだ悪の技術なのか。世の中ではさまざまな捉えかたをされています。私個人は、基本的には有効活用されていくべきものと捉えています。ただ、クリエイターが便利に使える心地良いものであるべきであり、作る人たちの夢や憧れを毀損し、クリエイターコミュニティのモチベーションを下げてしまうような使われかたは望ましくないと考えています。慎重に、かつ多くの人の納得が得られるかたちで、どのような使い方であるべきかは提示されていくことが大切だと思っています。
生成AIが代替し得るものは何か
ここからは、生成AIの持つ技術的なポテンシャルや課題に関する考察をお伝えしていきます。たまず生成AIは、従来のどのようなクリエイティブフローを代替し得る技術なのかを整理してみましょう。次の図にまとめてみました。
さまざまなクリエイティブのうち、技術的な部分とコンセプト設計の一部を担うことになります。
超柔軟な素材集
従来からShutterStockやGettyImagesに代表される素材サイトはたくさんありますが、すべての場面を網羅しているとは言えず、一貫性や連続性が求められる場面では使いづらさを感じることもありました。生成AIを活用することで、そういった課題を解決できるようになる場面は増える可能性があります。
具体的には、キャラクターが登場しストーリーが必要となる映画やマンガ、一貫性が必要な説明イラストや解説動画、教育動画などではとても便利なものになるでしょう。
高難易度の技術を要する3DやVFXソフトをワンタッチで
クリエイティブ系ソフトのなかでも、ダイナミックでよりアイキャッチの強いビジュアルを作ることのできる3DCGやVFXといった領域は学習コストが高く、誰もが使いこなせるわけではありません。こうしたハイエンドな表現をワンタッチで作れるようになるかもしれない点は、とても魅力的です。
撮影
実写撮影のなかでもロケ地や役者、演技指導が重要となるクリエイティブでは、コストだけでなく、技術やノウハウも必要です。動画生成AIが進化していけば、実写撮影をしなくても素材を制作できる日がくるかもしれません。
制作時間カット
描きこみが必要なクリエイティブの制作時間がカットできれば、そのほかの部分に多くの時間を割くことができます。プリプロダクションの高度化も期待できるでしょう。
センスの難易度が高い領域の補助
技術だけではなく、センスを補助する意味合いも大きいと言えそうです。コンセプトデザイン、キャラクターデザインのほか、構図やカメラワークなどは、素人がすぐに高品質なものをつくることは難しい要素です。こうした部分をAIがサポートしてくれれば、アマチュアクリエイターが助けられる場面も多くなるはずです。