作品が「強い世界観」をもつために必要なこと――編集者・佐渡島庸平さん

作品が「強い世界観」をもつために必要なこと――編集者・佐渡島庸平さん
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2024/05/27 08:00

 近年、世界観という概念が注目されています。モノやサービスが溢れるいま、人はその背景にある独自の世界観に惹かれる傾向にあるからです。本連載では、さまざまなクリエイターとそんな「世界観」の正体を考えていきます。聞き手をつとめるのは、『全裸監督』などの作品にプロデューサーとして携わり、世界観研究所の所長でもあるたちばな やすひとさん。第7回では、編集者・佐渡島庸平さんの世界観に迫ります。

世界観が作品の世界を統合する

たちばな 今日はよろしくお願いします。早速ですが、佐渡島さんは普段「世界観」という言葉を使いますか?

佐渡島 使うどころか「すべて」と言って良いと思っています。創作物とは何かと言えば、世界を作ることであり、その中心には世界観があると思うのです。

たちばな 「すべて」とまで言い切れるのですね。佐渡島さんの考える世界観をもう少し詳しく教えてください。

佐渡島 たとえばある風景写真に橋が映っていたとして、それが日本の橋であるのか中国の橋であるのかは、おそらくほとんどの日本人は区別がつくでしょう。私たちが肌で感じている日本文化の世界観がそこに表れているからです。

同様に、鳥山明さんの作品を見たとき、キャラクターが映っていなくても「これは『ドラゴンボール』だ」とわかる人は多いでしょう。もっと詳しい人であれば「いやこれは『Dr.スランプ アラレちゃん』だな」と見分けられる人もいるかもしれません。鳥山さんは、そうやって作品ごとに世界観を使い分けているわけですが、創作において「作られる世界全体を統合してるもの」が世界観だという認識です。

たちばな たしかに、そういった言葉にはしづらい「らしさ」はありますよね。

佐渡島 「らしさ」は一貫性という意味でも重要です。マンガでは、ドキドキさせたいストーリーなのに絵柄が緊張感に向いてない、ストーリーと絵の世界観が合っていないといった作品は正しく相手に伝わりません。

さらに言えば、マンガの場合、世界観があるものは二次創作が行いやすくなります。世界観がとても良くできていると、誰が二次創作をしてもその世界のものになりますが、もとの世界観が甘いものを二次創作されるとバラバラになってしまうのです。

たちばな そのような一貫性は、マンガ以外の世界にも通じることですよね。

佐渡島 レストランもそうですね。店内でかかっている音楽や使われている食器はもちろん、ソムリエの話しかたひとつとっても、世界観に合っているかどうかがとても重要です。

格式ばっているのか、フランクなのか。もちろんフランクだとダメということではなく、世界観に合ってないことが問題になるわけです。スターバックスにはスターバックスの、ドトールにはドトールの世界観がそれぞれあって、優劣をつけることではありません。その塩梅やバランスがもっとも難しく、かつそれが整っていないと世界観が成立しないと思っています。

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