さまざまな障壁とそれを超えた先にある未来とは――AR/MRの今とこれからを考える

さまざまな障壁とそれを超えた先にある未来とは――AR/MRの今とこれからを考える
  • X
  • Facebook
  • note
  • hatena
  • Pocket

 総合広告代理店・D2C IDが、ARを活用したプロモーション施策のノウハウをお届けする本連載。第3回は「AR/XR界隈が抱える課題や将来の展望」がテーマです。

 こんにちは。株式会社D2C ID / IMG SRC STUDIOのプロデューサー、上林です。

 前回はARの基礎知識を中心にお届けしましたが、今回は今後のAR/XR界隈が抱える課題や将来の展望についてお伝えしていきたいと思います。

AR発展のカギを握る「データ容量」と「通信速度」

 2024年現在、みなさんのスマートフォンでAR体験を楽しむには、ウェブブラウザ上で動作する「Web AR」と「専用アプリ」のふたつの方法があります。以前の記事でもお伝えしたように、Web ARはアプリのダウンロードが不要なためユーザー側の参加障壁が低い、きっかけさえあればどこでも誰でも手軽に楽しむことができる、といった特徴があります。そのためとくに、広告/プロモーション文脈で利用する場合はWeb ARを採用する企業やブランドが増えています。

 リッチな表現や見た目のクオリティなどはまだまだ専用アプリに軍配が上がるのは否めませんが、ここ数年Web ARも着実に進化を遂げています。そのため前回紹介したVPSのように、従来専用のアプリが不可欠だった技術も徐々に実現できるようになってくるはず。将来的にARの体験そのものは、アプリレスな方向に進んでいくのかもしれません。

 その際、重要となるのが「データ容量」と、それを伝送する「通信速度」です。

 Web ARはアプリのダウンロードこそ不要ですが、ウェブサイトへのアクセス時に、ARで使用する3DCGなどの素材を読み込んでおく必要があります。そのためある程度リッチな表現を行うにはデータ容量が大きくなってしまい、それによって発生するローディングはユーザーを不安にさせてしまいがちです。それが理由で、Web ARにおいてはデータの容量制限が設けられている場合が多いのですが、そうすると肝心な素材となる3Dデータの質を落とす必要があったり、リッチな演出やアニメーション表現が難しくなったりもします。

 スマートフォンの端末スペックの向上やウェブブラウザの進化など、ハード/ソフトの環境面では日々可能性が広がりつつあるのに、肝心のコンテンツは依然として数MB程度のデータしか扱えないというのは、非常にもったいない状況です。また、どこでも手軽に楽しめることが売りのWeb ARで、体験時に「Wi-Fi接続を推奨します」といった注意書きを加えるのも、あまりスマートとは言えません。

 我々のようなコンテンツ制作者の立場からしても、より楽しく、より体験価値の高いコンテンツを作るという本題よりも、いかにデータ容量を減らせるかといった副次的な課題に多くの時間を割かざるを得ないのは、あまり健全ではないと感じています。

 これを解消してくれるのが「通信速度」の向上です。現在各キャリアで広く普及している4G LTEでは、リッチなWeb ARを体験するまで待ち時間が発生することも少なくありません。しかしすでにサービスが開始されている「5G」や、今後導入されるであろう「6G」などの高速なデータ通信がさらに整備されていけば、そうした制限は徐々に緩和されるはず。Web ARでも格段に高いクオリティのAR体験が可能になってくると予想しています。

 一方、端末の処理速度も重要な要素です。10万円台後半の高価格/高スペックな端末では快適に動くARコンテンツも、廉価版の端末ではカクカクしたり、端末が過度に発熱したりすることもあります。これらはWeb ARと専用アプリの両方に共通した課題であると同時に、AR発展の障壁になってくるでしょう。

 こういった事態の解消に期待されている技術のひとつが、「クラウドレンダリング」です。3DCGのレンダリング(描画)という端末スペックへの依存を軽減し、クラウド上のパワフルな仮想マシンでレンダリングされたものを「映像」としてストリーミング配信する、という技術です。端末依存を解消するだけでなく、これによってさらに高クオリティなCG表現が可能になる点がメリット。すでにVR界隈では広まりつつありますが、ARでもこれを採用したものが登場し始めています。

 とはいえ現在広く普及させるには技術要件が高く、コスト的にも現実的ではありません。しかし通信速度の向上と合わせ、期待が高まる技術と言えます。

※この続きは、会員の方のみお読みいただけます(登録無料)。