マスメディア全盛期とSNSシェア時代における、プロモーションの変遷
最初におさえておきたいのは、スマホを通して個人が発信の影響力を持ち、情報発信の自由が広がった時代におけるプロモーションの変化です。
今と昔を比べると、企業のプロモーションにおけるアプローチの仕方は大きく変わりました。
テレビCMやマスメディアがプロモーションの中心だった時代は、一方向性の高いものが主流でした。重要視されていたのは、音や映像、キャッチコピーなどで、どれだけユーザーへ強い印象を残すことができるか、ということです。
ファンタの〇〇先生、リポビタンDの「ファイト一発!」、サントリーフーズ「燃焼系アミノ式」CMのリズミカルな体操など、記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。
最優先事項は、自社のプロダクトを知ってもらうために、ユーザーの頭の中に強い印象を残すこと。企業・発信側からのアプローチが中心にあり、ユーザーのアクションはプロモーションの与えたインパクトに依存する傾向がありました。
その背景には、当時のメディアとユーザーの物理的な距離感も関係しています。たとえば、テレビとスマホでは、明らかにユーザーとの距離感が違います。テレビはユーザーから一定の距離をおいた場所に設置することが前提の媒体ですから、強力な印象が残るようにしなければプロモーションが成り立たないのです。
SNSの時代へ ユーザーと企業間におけるコミュ二ケーションの距離感
日常的に情報を受け取る媒体は、スマホを中心としたソーシャルメディアへとシフトしています。
片手で持ち運べて目の前で画面を閲覧するスマホは、ユーザーとの物理的な距離が近く、いつでも手元における手軽さもあわせもった情報デバイスです。 布団の中やトイレなど「プライベートな空間」まで入り込めるため、不快さや煩わしさがないことが重要になります。
その結果、広告やプロモーションのアプローチは、「親しみがあるもの」や「共感できるもの」、「共有したいもの」が好まれるように変化していきました。
またSNSや動画プラットフォームの発展も、情報や映像に対するユーザーアクションに変化をもたらしました。発信側から強いインパクトを与えられる一方向性のアプローチから、双方向でコミュニケーションが発生するようになったのです。
情報の受け手も発信者となって身近な人へシェアすることが当たり前になると、誰かに共有したくなるものが好まれます。企業とユーザーの間にもコミュニケーションの矢印が発生し、さらに自分の隣にいる人同士でも、シェアをしたり、コミュニケーションをしたりする状況が生まれるようになったのです。
共感や驚きといったさまざまな感情がトリガーとなり、それがどのようにユーザーに派生しシェアが広がっていくのか。ユーザーの感情をどう動かし、伝達していくのか。それらを考えることが、プロモーション企画・設計に欠かせない要素になっていきました。こうした感情をベースにしたコミュニケーションと非常に相性がよく、爆発的な人気を生んだのが、「VTuber」や「推し活」の分野です。
「推し活」と「VTuber」から読み解く、感情をベースにしたコンテンツの作りかた
推し活もVTuberも、感情起点のコミュニケーションと非常に相性が良いコンテンツです。さらにはこの2分野同士の親和性も高く、さらなる相乗効果を生み出しました。
VTuberは、コンテンツそのものによって視聴者とのコミュニケーションが生まれ、一緒に楽しんだり、つくったりできる「リアルタイム性」が魅力のコンテンツです。
推し活と一言で括られることが多いですが、人によって推し活に取り組む動機や感情は異なります。推し活の心理は6つに分類ができると考えられ、それぞれの心理が掛け合わさって、ユーザーの行動やシェアアクションの傾向が変化しています。
さらに、ユーザーがコンテンツを受け取り楽しむことと、そのエネルギーを受けて自らも発信が行うことはセットです。影響を受けたコンテンツを別の形に昇華して発信することは、気持ちの発散や自己表現にもつながります。そうした発信の循環から生まれたエネルギーは、最終的に自分に戻り、日々の生活へと還元されていきます。
このように、SNSや距離感の近い媒体が中心となり、相互コミュニケーションでコンテンツがつくられていく時代のなかで、VTuberは「視聴者が一緒にコンテンツをつくる」ことができるため、理想的なアウトプットができるジャンルとなったのです。