クックパッド株式会社のデザインは誰が考えるんだ
クックパッド株式会社に所属するデザイナーは約25名。それぞれサービスごとに配置され、デザインに特化した専門部署はここ数年間は存在しなかった。
しかし、規模拡大によって会社全体のデザインを考える機会は増えていく。たとえば、クックパッドの社屋に入り、すぐ目に入るのはフリースペースの真ん中にある「キッチン」。社員が自分たちの食事をつくったり、料理素材の撮影で利用するのはもちろん、メディア取材や採用希望者からの視線も集まるクックパッド社にとって重要な場所だ。ここのデザインは誰が担当するのだろう。
「デザイナーにはプロダクトの価値や成長にコミットして欲しかったので、各部署のデザイナーを集めた横断組織は作りたくなかったんです。でも、じゃあ会社のことは誰が考えるんだろうと。会社のことをそれまでのようにボランティアでやってもらうには限界がきていました。そこで僕が本部長となり、倉光を部長として、倉光が産休からあけるタイミングで『デザイン戦略部』を立ち上げました」(宇野)
デザイン戦略部の立ち上げメンバーは5名。当初、倉光さん以外はサービス担当のデザイナーが兼任で所属していたが、現在では13名が所属。そのうち4名以外は専任のスタッフである。その中にはデザイナーではなく、いわゆる「総務」の仕事をしているスタッフもいるという。
「たとえば、オフィスの中で守ってほしいことができたときに、通常の総務であれば注意の貼り紙を増やすといった対応になると思います。それがデザイン戦略部の一員として課題に取り組むことで、そもそも問題が起こる箇所の導線を見直したり、デザイン視点で解決していけると考えています」(倉光さん)
実際に、デザイン戦略部が担当して話題になった事例がある。財務部から「スプレッドシートで作られた新規事業のステージ管理表をもっとみんなに見てもらえるようにして欲しい」という依頼を受けたデザイン戦略部。提案したのは、「レゴブロック」を使ったアイディアだった。
「どんな仕事であっても、発想の転換・自由度という意味で、人を巻き込むためにはデザインが必要だということを気付いてもらいたいんです」(倉光さん)
サービス間の連携を強める「デザイン会」と「留学制度」
デザイン戦略部の立ちあげ前から続く、全デザイナーを集めた「デザイン会」もまた、クックパッドの全社的なデザイン向上のために重要な役割を果たしている。
事業部ごとで偏りがちな知見を共有したり、全社的なデザインの課題を皆で考える場だ。以前は議論をすることが中心であったが、人数が増えた現在は、プロジェクトやデザインの発表の場になることが多いようだ。
知識だけでなく、デザイナー自身も部署を気軽に動くことができる。3ヵ月のおためし異動ともいえる「留学制度」があり、“留学先”の部署が気に入れば、そのまま異動することも可能だ。そのため、1年も経たないうちに部署を異動することも珍しくない。この流動的な仕組みによって、事業部間同士のシナジーが生み出される。
たとえば、生鮮食品ECアプリ「クックパッドマート」の商品ページには、その食材で作ることができるレシピが表示される。この機能で使われている技術は、もともと「クックパッド」で開発されたものであり、「クックパッド」を担当していたデザイナーが「クックパッドマート」の部署に異動したあとに知見を活かした事例だ。
「食材を買う時に、何が作れるのか?作りたいと思うレシピはあるのか?ということはとても重要な意思決定に役立っていると思います。この開発は、デザイナーが全社的な意識を持っていて、かつ、実際に流動的に異動できるからこそできたことだと考えています」(倉光さん)