ブランドのアイデンティティは、長らくロゴや色彩、タイポグラフィ、トーン&マナーなどの静的な要素によって構築されてきた。これらは今でも欠かせない部分ではあるが、テクノロジーが進化し、デジタルが主要なコミュニケーションチャネルとなった現代において、それだけでは十分ではない。
いま、ブランドには「動き」、すなわちモーションが求められている。
カナダ・トロントに拠点を置くクリエイティブデザイン会社「Vucko」の創設者であり、エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター(ECD)を務めるアンドリュー・ヴコ氏は、モーションがブランドに命を吹き込み、より豊かで意味のあるつながりを生み出す時代の到来を予見している。
それでは、なぜモーションをブランド・アイデンティティに取り入れることが重要となってきているのか、そしてどのようにモーションを導入するのか。本記事では同氏の経験と予測を紹介し、これからのブランド・アイデンティティとモーションについて考察する。
モーションは装飾ではなく、表現の本質
数年前までは「モーションをブランド・アイデンティティに加えるべきかどうか」が議論されていた。しかし興味深いことに2025年現在、その問いはすでに時代遅れと言えるだろう。今や「どのようにモーションをブランド・アイデンティティに取り入れるか」が重要なテーマとなっている。
モーションは、単なる装飾や視覚効果ではなく、ブランドの個性、価値観、そして信頼性を表現する“動的言語”であると考えられている。人間が言葉だけでなく、身振り、表情、間合い、リズムといった非言語的な手段を使って感情や意図を伝えるように、ブランドも動きによって自己表現を行う時代がやってきているのだ。
従来のブランド構成要素は今でも重要だが、それだけではオーディエンスの心に残る体験は生まれないだろう。現代のオーディエンスは、スクロールし続けるSNSのフィード、常に動くインターフェース、インタラクティブなアプリケーションに慣れ親しんでおり、静的なビジュアルだけでは印象に残らない。ブランドは、その接点ごとに動的にふるまい、反応し、適応することが求められている。
たとえば、「Back Market」というリファービッシュ製品専門のプラットフォームは、モーションを活用してブランドのコアである「サステナビリティ」や「循環型社会」といった価値観を体現している。彼らが導入する滑らかなトランジションや繰り返しの動きは、単に美しさを演出するためではなく、循環性という理念そのものを直感的に伝える役割を果たしている。
(出典元:Creative Boom)
モーションは“普遍的な言語”
モーションの大きな強みのひとつは、文化や言語の壁を越えて訴求できる点にある。文章やロゴの意味は翻訳や文化によって変わる可能性があるが、動きは感覚的で、誰にとっても普遍的な意味を持ち得る。これにより、グローバル市場で一貫性のあるブランド体験を提供することが可能になると言える。
実際にVuckoがGoogle Cloudの年次イベント「Google Next」のために開発したモーションアイデンティティシステムは、2,000以上のメディアに柔軟に対応するものだった。その目的は単なるアニメーションの提供ではなく、あらゆる状況下で一貫したブランドの“生きた”体験を可能にする「動的な設計システム」の構築にあった。
(出典元:Creative Boom)
結果として、さまざまなチャネルやタッチポイントにおいて、ブランドの一貫性と存在感を際立たせることに成功している。