経営とデザインをつなぐプロダクト開発とは――歩行専門トレーニングサービス「walkey」編

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「walkey」によってどのように歩行力を改善・維持するのか

 ここでみなさんの理解をさらに深めるために、改めて「walkey」の具体的なサービス内容を説明します。

 walkeyとは、歩行力を改善・維持することに特化した、在宅型の歩行専門トレーニングサービス。まずは専用のラボで歩行状態を測定し、その人の筋力や歩幅、速度などのデータをもとに、個別最適化されたトレーニングメニューを提供します。その後、自宅に戻ってからは専用のアプリと機器を使いながら、自分のペースでトレーニングを行います。一定期間ごとにラボで測定を行い、変化を確認しながら次のメニューを見直し、また自宅でトレーニング。このサイクルを回すことで、足腰の筋肉を鍛えます。

 トレーニングの中心になるのは、専用機器に備えられたワイヤー付きのハンドルです。これを引き上げることで、太ももやお尻といった歩行に重要な筋肉を鍛える運動を行います。このワイヤーには、朝日インテックが医療分野で培ってきた高耐久かつしなやかな素材技術が活かされています。また、ワイヤーを巻き取るゼンマイ機構の設計にも、長年の機器開発で蓄積された精密なメカ設計のノウハウが応用されており、安全かつ安定したトレーニングの実施を支えています。

 このようにwalkeyは、ラボでの診断と自宅での実践を繰り返すことで、データにもとづいた評価とフィードバックを行い、1人ひとりに寄り添った継続的な歩行トレーニングを可能にする仕組みとなっています。

「やってみよう」を育む仕組み

 とくにシニアの方にとって、日常的に体を動かす習慣を持つことはとても大切です。歩く力を保ち、元気に動き続けることは、心や体の健康だけでなく、自分らしい暮らしや社会とのつながりを守ることにも繋がるからです。そして、そうしたトレーニングを「やらなければいけないこと」としてではなく、「ちょっと楽しそう」「これなら続けられるかも」と思ってもらえるかたちで届けたい。そんな思いがwalkeyには込められています。

 そのためwalkeyの開発で最初に取り組んだデザインのテーマは、まさにそれを実現するための「継続できる体験」をつくることでした。歩行トレーニングという新しいサービスを、どうすれば日々の生活の中に自然に組み込み、毎日無理なく続けてもらえるかたちにできるのか。私たちはその問いに向き合いながら、UXの視点から、サービス全体の設計を進めていきました。

 大切にしたのは、日常でユーザーが負担を感じずに取り組むことができ、かつきちんと効果を実感できる体験をつくること。その工夫のひとつが、「反転学習」の考えかたを取り入れたサービス設計です。もともとは教育の分野で使われる学習法で、自宅で予習し、教室で実践するやりかたですが、これを歩行トレーニングに応用しました。自宅では専用アプリと機器を使って毎日実践に取り組み、ラボでは専門家が進捗をチェックしてフィードバックを行う。このスタイルは、コロナ禍で在宅の時間が増えていた社会的背景ともマッチし、利用者の負担を減らしながら、質の高いトレーニング体験を届けるものになりました。

 さらに、「続けたくなる仕組み」のデザインも重要です。walkeyのアプリには、ゲーミフィケーションの要素が随所に盛り込まれています。たとえば歩数や歩行時間が見える化されていたり、目標を達成するとバッジがもらえたり、自分の進捗がカレンダー形式で一目でわかったりと、小さな達成感を積み重ねられる工夫が施されています。ただ機能を提供するのではなく、「毎日ちょっとやってみよう」と思える体験をどうつくるか。その視点が、このサービスの根幹になっています。

 この「継続できる体験」のための仕組みは、ハードウェアのデザインにおいても同様です。トレーニング機器は、リビングなど生活空間の中に置かれることを想定しなければなりません。だからこそ、「いかにも運動器具」といった無骨で存在感の強いデザインではなく、出しっぱなしにしておいても気にならない佇まいを意識。素材感や色味には温かみのあるトーンを採用し、家具やインテリアと調和するように仕上げています。

 この「置きっぱなしにできる」という点も、トレーニングの継続性を高める重要な要素にもなります。片付ける必要がないため、生活動線の中に常に機器が存在し、自然と目に入りやすくなる。そのたびに「あ、今日も少しやっておこうかな」と思えるような環境をデザインすることが、日々の行動を無理なく支え、結果として継続的な運動習慣へとつながっていきます。