正しい“問い”とは『Hello, Design』の著者・石川俊祐さんが語る

正しい“問い”とは『Hello, Design』の著者・石川俊祐さんが語る
2020/03/17 08:00

 デンマークのコペンハーゲンで毎年開催されているUXデザインカンファレンス「Design Matters」が、今年1月、東京で開催された。同カンファレンスより本記事では、株式会社 kesikiのCo-founder、石川俊祐さんによるセッション「Hello, Design」より、「正しい問い」について語られた部分を抜粋してお届けする。

クリエイティブな自信を解放する

 石川さんは、パナソニックで工業デザイナーとして6年勤務したのち、デザインコンサルティング会社としてサービスや製品のブランディングに関わる業務に従事。その後、IDEO Tokyoの立ち上げに関わり、「デザインとビジネスとエンジニアリングをミックス」するべく、6人の共同創業者とともにkesikiという会社を立ち上げた。2019年2月に、デザインの意味を再解釈するための書籍『HELLO,DESIGN 日本人とデザイン』を上梓した。

 イギリスや中国、韓国、シリコンバレーなどで仕事をしてきた石川さんは、「そういった国と日本とでは、デザインの捉えかたが大きく違う」と感じていた。それも書籍を刊行するにいたった理由のひとつであった。

「日本人の奥底にある『クリエイティブな自信を解放する』ことが私の大切なテーマです。『HELLO,DESIGN』でもそれが伝えたいと思った。自信を解き放つことができれば、日本人も、自身の直感や視点をビジネスやサービスの開発に生かすことができるはずです」

株式会社kesiki Co-founder 石川俊祐さん
株式会社kesiki Co-founder 石川俊祐さん

 そう語ったうえでまず石川さんは、どうすれば愛される会社をデザインすることができるのでしょうか?と参加者に問いかける。

「そういった会社にするために大切なのは、体験とブランド。そのために必要なのは、会社の信念や目的にしっかりマッチするものを提供することです」

「重要なのは目的であり、その目的と提供するものがマッチしていること。が一致していること」。そう石川さんは強調する。

「会社には目的があります。我々が何者で、何を得たいのか、なぜ存在しているのかを確認することがとても大切です。そしてパタゴニアのような革新的な会社は、その目的をしっかりと持っている。そして、彼らは自分が信じていることを言葉にし、それに基づいて行動する。これが私の考える愛される企業にするための方法です」

感性を起点に

 近年多く語られている「デザイン思考」だが、さまざまな国で働いてきた石川さんは「日本企業で働く人たちの質問は、残念なことにかなり間違っていると感じました」と指摘。自身がパナソニック・デザインで手がけたというオーディオを例に挙げた。

「当時の私たちは常に、競合他社とどうやって差別化をするかということを考え、無音の音響室で、ほかの会社のスピーカーや音質を比較して聴いたりしていました」

 それから数ヵ月後、AppleがiTunesをリリース。iTunesが普及したことにより、数年のうちに石川さんが担当していたプロジェクトはすべて消えてしまったのだという。MP3プレーヤーやハードディスクといった領域もなくなってしまった。

「私たちは間違った質問をしていました。消費者を注意深く見ていなかったですし、そもそも音質に関心を持っているのかどうか、といった質問を持たなかった。どんなときも、正しい問いを投げかけなければなりません」

 これは、石川さんの経験を元に作られた「問い」に関する考えかたをまとめた図だ。

「市場規模や細かい数字などを見ていると、似たようなアイディアにたどり着くことが多い」と石川さんは言う。そういった情報は比較的誰でも集めることができるので、ソリューションも同じようなものになってしまうからだ。

「デザイナーはこの図でいうと右下あたりにいて、感情(emotion)でアウトプットを生み出しているイメージを持たれがちですが、デザイナーも右上にあるような『why』の問いかけが重要になってきています。数字ではなく、感性を起点に『問い』について考え、それから数字を使った分析など、『解く(solution)』といった観点へ進めていくことが大切です。

先ほどのオーディオでいえば、消費者にとって大切なのは音の質ではなかった。iTunesが示したような『新しい音楽に出会う』ことであったりするわけです」

「やりたい」理由を自ら見つける

 もうひとつ石川さんは、お菓子メーカーとプロジェクトに取り組んだケースも例にあげた。メーカーの最初のオーダーは、チョコレートのパッケージデザインを変えてほしいということ。これに対し石川さんは「それはパッケージデザイナーの方にお願いしてください」と返したところ後日その担当者は、「チョコレートの消費量を増やす」という別の問いを投げかけた。

「アメリカではひとりあたりのチョコレートの消費量は1年に8キロほどですが、日本ではおよそ2キロ。だからそれを3キログラムに増やしたい、と言っていました。単に量を増やすだけでよいのなら、箱につめるチョコレートの数を2つか3つ増やせばいいですよね」

 「何がしたいのか」。そのメーカーは何度か問いを重ねていくうちに、自分たちが本当にやりたいことにたどり着くことができた。そして最終的に、チョコレートの分野を牽引する存在になる、という正しい目的を持ち、日本で新たなチョコレートの文化を作りあげることに成功したのだ。

 この取り組みから見えるポイントは、「モチベーションの連鎖が必要」であるということ。石川さんによれば、“日本のチョコレート文化を牽引するリーディングカンパニーを目指す”という目的が見えたときに、チームはより熱心にプロジェクトに取り組むようになったという。

「難しいことではありますが、『やりたい』という理由を自分たちで見つけ、自分たちで問いを生み出せるようになることがとても重要です。そうすることで積極的にチームが関わり合い、ともにつくり、そのストーリーが語られるようになるのです」

 なぜ存在しているのか。そのために何をやるのか。何がしたいのか――。そういった問いと愚直に向き合い続けていくことが、これから一層、企業には求められるのかもしれない。