大日本印刷、Mantraと共同でマンガのAI翻訳システム開発 複雑で困難だったマンガの翻訳作業を支援

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2021/09/12 06:00

 大日本印刷(以下、DNP)は、AI翻訳サービスを展開するMantraと共同で、マンガを多言語で制作するDNP独自のシステム「DNPマンガオンラインエディトリアルシステム MOES(モエス)」に搭載する、独自のAI翻訳エンジンを開発した。これにより、翻訳者がすべて手作業で行ってきたマンガの翻訳を、AIが高いレベルでサポートする。同社は同システムの2021年度中の実用化を目指す。

 現在、海外の読者の開拓に向けて、日本のマンガを多言語に翻訳してグローバルに展開していくための制作・製造・流通体制の整備が進められている。そのなかでも特にマンガの翻訳については、話し言葉が多く、吹き出しごとに文章が途切れるため、翻訳にAIを用いることが難しく、人の手で制作するコストと負荷が大きいものになっており、コストや負荷の面から翻訳タイトル数を抑える出版社も多い状況となっていた。

 こうした課題を解決するため、DNPとMantra社は、マンガに特化することで精度を高めたAI翻訳エンジンを開発し、MOESに搭載して制作時の生産性の向上を実現する。

「DNPマンガオンラインエディトリアルシステムMOES」とAI翻訳機能について

  • MOESは、翻訳版のマンガ制作に必要な翻訳・レタリング・校正・進捗管理等を行うクラウドシステムで、2016年から印刷物や電子書籍におけるマンガ翻訳の制作工程で活用している。
  • DTPソフトを使わずに、画面上に表示されるマンガのレイアウトの吹き出しのなかに、翻訳した文章を直接入力。確認や修正も同様にレイアウトを見ながら行えるため、文章の入れ間違いなどを防止する。
  • 時差のある地域で作業する翻訳者や翻訳チェック者などの間での、データ授受や業務の進捗管理が容易となり、大幅な作業負荷軽減や作業時間の短縮を実現。
  • MOESでの翻訳作業は従来、翻訳者がすべて手作業で行っていたが、今回開発した機能によりあらかじめ自動翻訳された文章が入力された状態から、翻訳の確認や修正を行う運用が可能となった。翻訳会社による評価テストでは、AI翻訳の導入によって翻訳に関する作業時間が、翻訳が難しいとされるジャンルにおいても、従来と比較して30%以上削減されるという結果を得たという。
  • なおDNPは、自動翻訳後に翻訳者による微調整やネイティブチェッカーによる校正作業の工程を設けることで、表現のニュアンスなど翻訳精度が損なわれないように努めるとのこと。

 今後DNPは、海外展開の需要が高いマンガの着色や縦スクロール化などの機能開発や体制構築を進め、MOESを軸とした海外版マンガの制作・製造体制を強化。また、雑誌制作~単行本制作~海外版制作~電子コミック配信といった一連のプロセスをトータルにサポートし、海外のマンガファンが多くの作品に触れる機会を創出する。同システムをはじめ、国内外のマンガ制作関連事業で、5年後までに120億円の売上を目指す。