日本パッケージデザイン大賞2023贈賞式を実施 「サステナビリティを掲げる時代はとっくに始まっている」

日本パッケージデザイン大賞2023贈賞式を実施 「サステナビリティを掲げる時代はとっくに始まっている」
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2023/02/07 08:00

 公益社団法人日本パッケージデザイン協会(以下、JPDA)は、日本パッケージデザイン大賞2023の贈賞式を実施。応募総数1,060点の中から選ばれた受賞作品を表彰し、大賞者へのインタビュー、審査会総評、特別審査員からの作品評価などが行われた。

 冒頭登壇したJPDA理事長の小川亮氏は「社会がどのように動いているのか、人々がどんなことを考えているのか、感じているのかを色濃く反映するのがパッケージデザイン」とコメント。今回の大賞の特徴として、次の2点を挙げた。

「ひとつは、環境に対して新しい答えをだすということです。ある審査員の方が『減らすだけじゃない、豊かさを諦めない』とおっしゃっていましたが、パッケージデザインには人々の生活を彩る力があるため、減らすだけでなく、どんな新しい答えをだすのか、に挑戦していただいたパッケージデザインにたくさん出会うことができたと思います。

もうひとつは、コロナをはじめとした社会情勢のなか、心がほっこりするようなデザインです。このパッケージデザイン大賞をきっかけに、皆さんのデザインや製品が社会で輝くきっかけになればと願っています」

公益社団法人日本パッケージデザイン協会 理事長 小川亮氏
公益社団法人日本パッケージデザイン協会 理事長 小川亮氏

 本大賞では、アルコール飲料部門、化粧品部門、輸送用ケース部門、VI・BIなど10の作品カテゴリーごとに各賞を選出。大賞1点、金賞7点、銀賞12点、銅賞10点、特別審査員賞4点が選ばれ、会場で贈賞が行われた。

 特別審査員からの作品講評では、それぞれが選んだ理由を解説。ロッテの「Loopキシリトールガム」を選出した太刀川英輔氏は、次のように説明した。

「今回は『サステナビリティ』が大賞全体のテーマでしたが、Loopはアイコニックな形でパッケージの再利用を促している点が素晴らしいです。サステナブルは非常に重い課題として降り掛かっていますが、Loopが特別新しいのかというとそういうわけではありません。牛乳瓶と同じなんですよね。物が足りなかった状況では、みんな当たり前にそんな工夫をしていました。ですがそういう時代でなくなり、僕らが豊かだからこそ、イマジネーションが求められているのだと思います」

金賞と特別審査員賞(太刀川英輔氏)を受賞した「Loopキシリトールガム」(出典:プレスリリース)
金賞と特別審査員賞(太刀川英輔氏)を受賞した「Loopキシリトールガム」(出典:プレスリリース

 応募総数1,060点の中で大賞は1作品。審査員の満場一致で決定したというのが、資生堂クリエイティブが手掛けた「BAUM」だ。それを受けて、アートディレクターをつとめた山田みどりさんとプロダクトデザインを担当したデザインオフィス「kumano」の熊野亘さんによるトークセッションを実施。モデレーターは理事長の小川氏がつとめた。

――山田さんは、どのような立場で本プロジェクトに関わったのですが?

山田 このプロジェクトが立ち上がったのは約3年前になります。これは特別なプロジェクトでもありましたが、商品になるかまだわからないところからスタートしました。そんななか、資生堂という会社で「エシカル」などを念頭においたブランドを立ち上げることとなり、たくさんのコンセプトを模索した結果、「樹木との共生」にいきつきました。私はアートディレクターとして関わったのですが、樹木の知識が乏しかったため、木を使った家具に長く携わっている熊野さんにお声掛けしました。

――パッケージで木を用いることを聞いたとき、どのように感じられましたか?実際に携わってみていかがでしたか?

熊野 木を使うことに喜びは感じましたが、あまりに目の前のハードルが多く、どうしていこうかと最初は悩みました。家具と化粧品では木の使いかたがまったく異なりますし、ミリ単位の調整や木材のコントロール、保管の仕方も非常に難しい。そういったことを高いレベルで調節していかないと、常に同じクオリティで木のパッケージを機能させることはとても難しいです。

またこれを数個作るのではなく、資生堂さんとして万単位で作っていくことを考えると、どのようにクオリティをキープし、化粧品として機能させるかという点も悩みどころでした。最終的に総合家具メーカー「カリモク」さんの端材を使いこのパッケージは作られていますが、木の端材だけでなく、プラスチックなど異素材の組み合わせで成り立っている商品です。同じ素材同士であれば高い精度で作ることができますが、異素材で作り上げるという点にカリモクさんも苦労されていました。みんなが知恵をだしあってたどり着けたとデザインだと思います。

大賞に選出された資生堂「BAUM」
大賞に選出された資生堂「BAUM」

――このブランドへの思いや、今後どのようなブランドに育てていきたいかについてお聞かせください。

山田 自分自身もフィンランドへの留学経験があるなど自然が好きなため、それをパッケージに盛り込むことが実現できるのかという葛藤を抱えながら取り組んできました。樹木というのは日本人にとって馴染みの深い素材でもありますし、木は循環の素材の象徴でもありますが、それをブランディングとして、パッケージとして、ブランドの哲学としても、一貫して体現することができたのではないかと思います。

現在、植樹活動も始めていますが、木が育つのは30年後。木は長い年月をかけてかかって育つものではありますが、30年後に、育てた木で家具を作り、またその端材で、という本当の意味での「循環」が体験できたらより深いブランドになっていくのではないでしょうか

左から順に、公益社団法人日本パッケージデザイン協会 理事長 小川亮氏、資生堂クリエイティブ 山田みどり氏、デザインオフィス kumano 熊野亘氏
左から、公益社団法人日本パッケージデザイン協会 理事長 小川亮氏、資生堂クリエイティブ 山田みどり氏、デザインオフィス kumano 熊野亘氏

 最後に、本大賞の審査委員長をつとめた信藤洋二氏が、審査全体を総評。次の2点を本審査における特徴として語り、贈賞式を締めくくった。

「1985年から始まったパッケージデザイン大賞でエコデザインを取り上げ始めたのは2011年。その際にエコデザイン部門をつくりました。それくらいエコに対応するデザインは当時数が少なかったなか、2011年に受賞した作品のひとつが、コカ・コーラの初代いろはすです。当時エコデザインは特別部門であるという意識でしたが、現在はエコデザインが特別でもなんでもなく、全部門の受賞作が環境やサステナビリティに何らかの配慮をされていたという点が今回の賞のひとつの大きな特徴だったと感じています。パッケージデザインの課題として、エコやサステナビリティを掲げていくことが当たり前の時代がとっくに始まっていることが、今年の審査会をとおして改めて明らかになったのではないでしょうか。

また、デザインには物語が大切であるというのは昔から言われていることではありますが、今年の受賞作をあらためて拝見していると、エコに対応するとなかなか審美性がだせないなど、デザイナーとしては苦労も増えたのではないかと思います。ただその際にストーリーを作りあげることで、また違った形でデザインの魅力を表現している作品が非常に増えましたし、そこが逆に焦点が当たりやすくなったのではないかというのが、私が取り上げたいもうひとつのポイントです。

日本パッケージデザイン大賞2023 審査委員長 信藤洋二氏
日本パッケージデザイン大賞2023 審査委員長 信藤洋二氏

審査会でも、具体的なストーリーが体験の価値にまで見えてくる作品があると、審査していても非常に盛り上がるんですよね。今後パッケージデザインは、体験価値の中心にあって、そこからより生活のワンシーンを作っていくようなものになっていく。そんな可能性があるのではないかと気付かされました。大賞に選出したBAUMはまさに、サステナビリティと体験価値をスマートに結びつけた点が、評価されたのではないかと思っています」