[新連載]事業に伴走するには? デザイナーが持つべき4つの視点

[新連載]事業に伴走するには? デザイナーが持つべき4つの視点
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 「UI/UXデザイン」と言っても、事業規模によって取り組んでいる内容は大きく異なります。本連載では、事業のサイズや規模によって、どこに注力しながらデザインをしていくべきかについて、サービスデザイン、UXデザインを手がけるrootの代表取締役 西村和則さんに解説していただきます。初回のテーマは、「これからのデザイナーに必要な4つの視点」です。

 2018年5月、経産省が「デザイン経営」宣言を出しました。企業の事業活動において、これほどデザインが重視される時代はこれまでなかったのではないでしょうか。従来、デザインが扱ってきた対象は歴史とともに変化してきました。デジタルシフトが加速する社会の中で、求められるデザインの役割はより広義になり、影響力も大きくなっています。

 デザインの価値が高まり、役割が重要になるにつれて、デザイナーに求められる役割や能力も大きく変化しています。もはや、デザインとはデザイナーひとりで担うにはあまりにも大きい存在になっていると、私は考えています。今回は、事業にどのような変化が起きているのか、それにともなってどのようにデザイナーが変わるべきかを紹介します。

ビジネスに起きている変化、デザインに起きている変化

 デザインの影響力が高まるとともに、事業やプロダクトの開発においてもデザインを求める動きは高まっています。この10年でスマートフォンを筆頭に、デジタル領域のテクノロジーは目まぐるしい進歩を遂げてきました。

 テクノロジーの進歩にともない、ビジネスにおいても大きな変化が生じています。リーンスタートアップやアジャイル開発など、小刻みな製品開発を繰り返しながらユーザーニーズに応える手法が主流となりました。これにより、企業はより密接に顧客と向き合うことを、そしてデザイナーには、そうしたビジネスと顧客の間を取り持つ橋渡し的な役割が求められるようになりました。

 環境の変化により、デザインはその対象を広げています。昨今、ビジネスにおいてよく耳にするのは、「ユーザーファースト」や「UX」といった言葉とあわせてデザインを語る声です。デザインは影響力を広げるあまり、さまざまな解釈がなされ、それぞれの文脈で語られるようになってきました。

 デザイナーとして活動している、これからデザイナーとして活動していこうとしているのであれば、この違いを認識したうえで、適切なアクションをしていかなければいけません。

「デザインに対する期待」をすり合わせる

 デザインの注目度は上がり、語られる場面も増えた一方で、いま語られている「デザイン」という言葉には、デザイナーが期待する意味と、事業責任者やエンジニアが期待する意味に大きな乖離があるように思います。

 たとえば、これまでデザイナーのいなかった事業会社へひとり目のデザイナーとして入社するケースでは、デザイナーに対する期待値が非常に高く、短期的な成果をデザインに求められることが多々あります。いままでデザイナーのいなかった組織で構築された事業指標やプロダクト開発体制において「デザインを取り込むことができていない」状況です。つまり、デザインを考慮せずに指標や体制が作られてしまっているということです。

 こういった組織では、デザイナーと協働した経験が少ない人も多く、デザインに対して抱く前提知識や期待値が噛み合わないことも多いです。各部署から、ひとりのデザイナーでは抱えきれないほどあらゆるデザイン依頼が飛んでくることになり、そのすべてに応えようと奮闘するあまり疲弊し、フェードアウトしてしまうことも。

 組織でデザインに取り組むデザイナーは早い段階で、「自分自身がどういったスキルセットを持っており、どんな課題をデザインで解決できるのか」といった共通認識を、組織に対し示す必要があるのです。

これからのデザイナーが持つべき4つの視点

 ビジネス職として従事している人、エンジニア、デザイナーそれぞれの立場から「デザイン」を眺めてみると、デザインに求める役割や認識は異なっていることがわかります。ここではそれらをふまえ、「デザイナーが持つべき視点」について紹介していきます。

 事業の企画やサービスの設計、UIの制作に加えて、組織内でのコミュニケーションなど、デザイナーに求められることは多岐にわたります。デザイナーは、アウトプットを制作するだけでは不十分なのです。

 では事業と向き合い、着実に成果を出すデザイナーとなるためにはなにが必要なのか。持つべき4つの視点をまとめてみました。

1.チームの認識を揃えるファシリテーション

 プロダクト開発の現場では、ビジネス職、デザイン、エンジニアの3職種での連携が求められることが多いです。デザイナーの立場から考えると、プロダクトのUI/UXなど限定された範囲で力を発揮すればいいと考えてしまいがちですが、重要なのは事業やプロダクトが成長するかどうか。ひいては、チームにおけるデザインの期待値や目線を揃え、同じ方向を向いてデザインに取り組める素地をいかに作るかが大切です。

 そのために求められるのは、ビジネスや開発領域にも横断して関わること。コミュニケーションやプロトタイピング、グラフィックファシリテーションなどを通して認識を揃え、チームにおけるデザインの前提知識を底上げすることが、よいプロダクトを作るきっかけとなるのです。

2.デザイン「外」的思考を持つ

 ビジネス職やエンジニアとのコミュニケーションを円滑に実施していくためには、デザインの外について知り、思考することが欠かせません。プロダクト開発の現場では、デザイナーが孤軍奮闘する様子がしばしば見られます。「経営者がデザインを理解してくれない」、「機能やKPIを優先した施策ばかりでユーザー体験を重視したものづくりができない」。そんなデザイナーの声も耳にします。

 ですがいま求められているのは、“デザイナー”としてデザインを捉えるのではなく、ビジネス職やエンジニアの目線から見たデザインはどんなものであるかを客観的に把握しながら、プロダクト開発におけるデザインをリードし、チーム内での意思統一や指針を立てること。

 デザインに関する知識のある人であれば、PdM(プロダクトマネージャー)のようにデザイナー以外の人物がこの役割を担うことも可能ですが、デザイナー自身がそういった視点を持つことで、チームをよりデザイン主体の構造へ変化させることができるのです。

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