20歳で飛び込んだ色の世界
――まずは桜井さんが色に興味を持ったきっかけやこれまでのご経歴を簡単に教えていただけますか?
20歳のときに最初に就職したのは不動産会社です。当時はバブル経済で日本の景気がとても良く、私は受付で電話の取り次ぎやお茶出しをしていました。ですが半年くらい経ったころにほかの仕事がしたいと思い、手に職をつけたほうがいいんじゃない?という母のアドバイスをもとに仕事を探すようになりました。そんなときに雑誌の『anan』で「アメリカからカラーの仕事が上陸しました」という記事を見つけたんです。その仕事は、さまざまな色の布を使って、似合う色とそうでない色を判断するというもの。いまでいうパーソナルカラーです。それを見たときに「かっこいい!」と思い、とりあえず勉強してみようと思ったのがきっかけです。
そうして色の世界に入ったのですが、すぐ壁にぶつかりました。パーソナルカラーというのは、基本的には一生涯変わらないと言われています。つまり、リピーターを獲得することが難しく、これだけで生計を立てていくことが厳しいのではないかと思ったんです。そこで、カラーのプロを名乗るなら色彩学をイチから勉強しなければならないと思い、仕事を続けながら色彩学を学ぶスクールに2年間通いました。
卒業後、そのスクールの先生になったのがいまに至る最初のステップです。色の世界に飛び込んでから3年も経たないくらい、24歳のときでした。
いまは色彩検定をはじめ、色にまつわる資格も増えてきましたが、当時はそういった資格もほとんどなかったので、私も仕事をしながら、色彩検定やカラーコーディネーターといった資格を取得していきました。
――いまはどういったお仕事が多いですか?
企業向けのホームページ制作や、大型商業施設のレストスペースや化粧室の色彩設計、展示会の出し物、医療機器の色彩設計などさまざまです。
クライアントさんからのオーダーも変化してきたと感じています。以前はクライアントさんから、色に関する細かいオーダーはほとんどなかったのですが、ここ5年くらいで色を重視するクライアントさんが増えてきたように思います。お仕事をいただいた際、「いつものデザイナーさんにお願いしていると同じ雰囲気になってしまうことが多いから、色の専門家を入れてみようと思って」といった声をいただくこともありました。
新しいものやいままでと違うものを得るためにお金を使うなら、専門性を細分化し、各領域の専門家を集めたチームで取り組んだほうがよりよいものができるんじゃないか、という流れが少しずつ出てきたのではないでしょうか。実際に私も、ほかにデザイナーさんやエンジニアさんがいるチームに、カラーのプロとして声をかけていただくことが多いですね。
『配色アイデア手帖』で人気のテーマ3選
――『配色アイデア手帖: めくって見つける新しいデザインの本』(SBクリエイティブ、2017年)では、「フレッシュ・クリア」、「エレガント」、「ミステリアス」といった13のパートごとに、全部で127の配色テーマがまとめられています。この配色は、具体的にどのように考えたのですか?
クライアントさんから配色を考えてほしいという依頼を受けたときに、その方向性はいくつかのカテゴリーに分けることができると思っていて。この13のパートのような引き出しが私の頭の中にあり、それをそのまま形にしたのがこの本です。
パートわけも、タイトルづけから写真のセレクト、タイトル下にあるちょっとしたコラムまで、私がすべて自由にやらせていただきました。テーマによって、自分のなかのおじさんな側面、乙女な部分を発動させながら書いてみました。
たとえばこの下の図、「ニューヨークの摩天楼」は、まずフリー素材からニューヨークの画像を選んで考えてみたのですが、実際に本に掲載しているものよりも、選んだ画像の色合いがもう少しブルーグレーに近かったんですよね。ですがブルーグレーのマンハッタンはなんだか寂しい気がしたので、色を少しシアンに振ってみたら、曜日も時間もわからないような独特な印象になりました。それが下記図の左下にある画像です。本書ではこのように、各テーマごとに配色のもととなる写真と文章、その写真の中からピックアアップした色を9色そろえています。
そこでこの左下の画像を少しシアンに加工したうえで、スポイトで色をひろい、もう少し温かみのあるグレーとブラウンの中間のような色合い(1のUrbane Brown)にしました。そこでアクセントカラーはどうしようかと考えていたときに思いついたのが、アメリカの大統領が就任演説のときにつけているネクタイの赤。真っ赤だけど、でも少し深みのあるような赤を合わせたらいいのではないかと思い、8のPower Tie(パワータイ)や9のMake it Happen(メイクイットハプン)のような赤を加えました。