前回の記事では、リモート環境下におけるコミュニケーション方法について、Relicのデザインチームの取り組みを例にご紹介しました。今回はサービスデザインの領域でよく用いられる「プロトタイピング」について紹介したいと思います。近年、デザイン思考などの考えかたが注目される中で、「プロトタイプ(試作品)」というワードも認知されるようになってきました。
しかし、プロトタイプと一口に言っても、多くの種類が存在しています。目的や状況に応じて、私たちはどのようにプロトタイプを選ぶべきでしょうか。また、リモートワークが中心となるクリエイティブワークでは、どのように取り入れていくべきなのでしょうか。
Relicが提供する新規事業開発に特化した共創型エンジニアリングサービス「Digital Innovation Studio」では、多くの新規事業のアイデアをカタチにしてきました。新規事業開発では、世の中の課題に対して解決策を模索するところから始まります。解決策が定まってくると次に検証すべきは、「その解決策は本当に正しいのか」という点です。そこで無形のアイデアを形にして、想定ユーザーに疑似体験してもらうことで解決策の検証が可能になります。ここでは新規事業を作るうえで大切にしている「プロトタイピング」にフォーカスしてお伝えしていきます。
「プロトタイプ」と言う名の未完成品
まず、改めてプロトタイプについて説明していきたいと思います。プロトタイプのそもそもの意味は「試作品」です。個人がアイデアを検討したり、開発チームのなかでその効果や価値を共有することで、問題点を発見するために作られるもの、という意味でした。
しかし近年のプロトタイプは、ユーザーテストのための「実験機」としての側面もあります。デザインツールの進歩によって、だれでも簡単にプロトタイプを作ることができるようになりました。SketchやAdobe XD、figmaといったデザインツールを使用して、見た目だけでなく動きも表現することができます。不具合の発見だけでなく、最終的なサービスに近い体験を提供することが可能です。
これらのプロトタイプを用いて、できるだけ早い段階において低コストで施策検証し、成果物の質を高めていくためのプロセスを「プロトタイピング」といいます。
プロトタイプには便利な面もありますが、最近では言葉だけが先行し「あらゆる途中経過の成果物=プロトタイプ」として広まっているようにも感じます。プロトタイプを作るうえで、気をつけるべきことはいったい何なのでしょうか。プロトタイプは「未完成品」となにが違うのでしょう。
また、一口にプロトタイプといってもその定義は曖昧です。ペーパープロトタイプ、ワイヤーフレーム、 モックアップ、 コンセプトムービーなど、さまざまな種類があるプロトタイプは、どのように使い分ければ良いのでしょうか。その疑問をひとつずつ解決していきましょう。
プロトタイプに共通する唯一のこと
たくさんの種類があるプロトタイプに共通するのは、「無形のアイデアをカタチにしたもの」であることです。
アイデアをカタチにすることで、頭の中に描いていただけでは見つけることができなかった新しい気づきを得ることができます。改良版のプロトタイプを作成する、期待した効果が得られないと判断して別のアイデアに方向転換をするなど、次の行動を引き起こすきっかけとなるのが、プロトタイプの目的だと考えています。
作ったプロトタイプがまったくの検討違いでゼロから作り直す事態になったとしても、それは決して無駄なことではありません。プロトタイピングのメリットは「早めに失敗できること」でもあります。
とくに既存事業よりもはるかに不確実性が高い新規事業においては、失敗から学ぶことのほうが重要になってきます。次項では「不確実性」をキーワードに、目的や状況に応じた適切なプロトタイプを紹介したいと思います。