実際のパッケージデザインから考える、ECとサステナビリティ

実際のパッケージデザインから考える、ECとサステナビリティ
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2020/10/23 10:00

 デザインの中でも身近に溢れ、生活の中に溶け込んでいる存在でもあるパッケージの基礎について、本連載ではパッケージデザイナーの小林ユウスケさんに解説していただきます。第4回となる今回は「ECと環境問題」がテーマです。

 突然ですが、最近よく思うことがあります。パッケージは役者にとてもよく似ている気がします。私のイメージですが役者は演じる役に合わせて衣装を身にまとい、役を深掘りし、演技をします。演じる媒体によって演技の質も異なるものになるでしょう。

 映像作品であれば、繊細な演技でもカメラの存在によってそれは切り取られ、受け取りやすくなります。舞台の場合には、現実ではありえない大袈裟な動作や声量でも違和感なく受け取ることができる。そういった背景には、脚本や演出家の意図が存在しています。

 とてもデザインと似ているように思えてきました。

 パッケージに置き換えてみると、売り場(舞台)がセレクトショップなのか直営店なのか、それともEC サイトでの取り扱いなのかなど、その売り場も考慮した表現(演技)とデザイン(衣装)が必要です。そして商品(役)やそれにまつわる背景(物語)を深掘りし、どのようなことを表現するべきかを探る必要もあります。

 競合と並ぶ場合には強いロゴや色使いで声を張りあげる必要があるかもしれません。ECサイトの場合には、商品パッケージは繊細な表現でしか語らずともウェブサイト上で十二分に伝えることもできるでしょう。

 このように意図をもってさまざまな要素を設計するデザイナー(演出家)という存在。違うものに置き換えてみると、また普段とは違ったアイディアの種になりそうです。

 さてここからが今回の本題です。

 今やパッケージは必ずしも店頭に置かれるとは限りません。ECサイトを利用してモノを買うことが当たり前になりました。

 そんな今のパッケージを読み解くうえで欠かせないのが、「環境負荷」という要素です。大きく変化しているパッケージを取り巻く環境。今回はどのような「!」や「?」が見つかるでしょうか。

ECの特徴を活かしたパッケージデザインとコミュニケーション

 まずはECについておさらいしておきましょう。

 ECとは「Electronic Commerce」の略で、電子商取引の意味です。Eコマースとも呼ばれ、インターネットなどのネットワークを通じて売買や契約、サービスの契約をすることを指します。わかりやすいところではAmazonや楽天が身近ですね。

 そんなECには、次のような特徴があります。

売る側のメリット

  • 地域を選ばずに販売ができる
  • 店舗を持つ必要がない
  • 商品の詳細をしっかりと説明できる
  • 顧客のデータが収集しやすい

買う側のメリット

  • いつでも買い物ができる
  • 商品の詳細を知ることができる
  • 家まで届けてもらえる

 ECではウェブサイトという媒体があることによって、メーカーは商品に関する情報を語りやすく、消費者もまた情報を手にしやすくなりました。これにより、パッケージの役割のひとつでもある「中身を伝える」という部分が少し変わってきたように思います。

 その変化は、パッケージデザインにどのような影響を与えるのでしょうか。実際に商品を見ていきましょう。

各社ラベルレスボトル/アサヒ飲料・コカコーラ・サントリー・アスクル

ミネラルウォーターは、ECサイトの利用が当たり前になったことで大きく影響を受けた商品のひとつではないでしょうか。重くて持ち帰るのが大変な飲料はECとの親和性も高く、利用している人も多いでしょう。ラベルレスのボトルはリサイクルの観点からも、ラベルを剥がす手間が省けるメリットがありますね。

商品からラベルをなくし、シールを添付することで販売している商品も数多くありますが、家の中で商品の滞在時間が増えることにより、いろはすやアスクルのような、より暮らしに馴染むデザインが登場しました。

外装の段ボールのデザインも本体同様、暮らしの空間に馴染むようなグラフィックと、畳みやすく廃棄しやすい設計のもの、ストッカーのような輸送だけではない機能をもった段ボールも登場しています。

moogy/キリンビバレッジ

ECとパッケージデザインを語るうえで、キリンビバレッジ「moogy」の存在は外せません。2016年にEC限定で発売されたmoogyには、大きな特徴がふたつ存在します。

ひとつめの特徴は、パッケージに商品説明などの中身を訴求する文言やグラフィックが一切存在しないことです。北欧のテキスタイルのような豊富な外見のバリエーションは、ファッションのように気分に合わせて選ぶことができ、ひとつの箱に複数の絵柄がランダムで入っている点もおもしろいポイントです。

ふたつめの特徴はSNSを活用し、発信することでブランドと消費者の距離がとても近いという点です。Instagramではmoogyのある風景の写真が投稿・シェアされていたり、商品開発者の顔や人柄を消費者まで届けることでファンをつくり、ブランドの価値を高めています。

 キリンのように、大きな企業の商品でありながら作っている人の顔が見える。このようなブランド戦略はとても挑戦的で、流通の変化や消費者と商品の関係性の変化がもつ可能性の大きさを感じさせます。

 流通の変化によってデザインを考える上での視点が、店頭で目立ち「認識してもらうためのデザイン」から「生活に寄り添うデザイン」へ、つまり、メーカー目線から消費者寄りの目線へというように、デザインの根本である使う人のもとに帰ってきたようにも感じます。

 と言っても店頭で目にするデザインとEC限定デザインとで、正しく優れているのはなにかということではなく、モノを買うまでのプロセスが多様化したことによって、同じ商品でも求められるデザインが変わり、多岐にわたるようになったと言えるでしょう。

※この続きは、会員の方のみお読みいただけます(登録無料)。