デザイナーの力を拡張するために必要なこと――3つのキャリアを軸に活躍の場を広げる平澤克幸さんが解説

デザイナーの力を拡張するために必要なこと――3つのキャリアを軸に活躍の場を広げる平澤克幸さんが解説
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 「コミュニケーションデザイン×マーケティング×ブランドマネジメント」という3つのキャリアを軸に、制作会社、広告代理店、大手事業会社、ベンチャー企業と、20年以上にわたり活躍の場を広げ続けてきた平澤克幸さん。サービスづくりの過程で一度デザイン領域を離れ、斜め向かいからデザイン領域を俯瞰したことで得た気付きを、「デザイナーがより活躍の場を広げるためにやるべきこと」というテーマで解説していただきます。今回は「デザイナーが直面する問題とデザイナーの力を拡張する業務」についてです。

 はじめまして、平澤克幸です。いままでは老舗ベンチャー企業でブランド戦略を担当したり、総合広告代理店でクリエイティブ全般のディレクション業務やマーケティング業務などに従事しており、現在はLAPRASというスタートアップで、ブランドエクスペリエンス・デザインとコミュニケーションデザインの責任者をしています。

 自身の強みといえそうな領域は、「コミュニケーションデザイン×マーケティング×ブランドマネジメント」だと考えています。

 私はいままで3つのキャリアを軸に、プロダクトに関わるさまざまな課題に向き合い、魅力を広げるサービスづくりを行ってきました。その過程で一度デザイン領域を離れ、斜め向かいからあらためてデザイナーの働きかたについて感じた気づきを「デザイナーがより活躍の場を広げるためにやるべきこと」というテーマでお届けします。

 初回となる今回は、「デザイナーが直面する問題、デザイナーを拡張する業務」について取り上げていきますが、本題に入る前に、本連載における“デザイナー”がどの領域を指すのかをお伝えしたいと思います。

 そもそもプロダクトに関わるデザイナーの役割や種類はその組織文化やチームの規模によって多様ですし、企業の内情によって当てはまらない内容も多少あると思います。ですが本連載では、私の経験則で語れる「サービスの体験設計を行うエクスペリエンス・デザイナー」と「コンシューマー、ユーザーへ表現づくりを行うコミュニケーション・デザイナー」のふたつに絞っています。

 記事を通して、自社サービスを提供する組織のデザイナーとして働く20代から30代前半ぐらいのデザイナーに対し、今後のスキルアップ成長の糧として何か得るものを感じてもらえると嬉しいです。

デザイン業務で起こる問題と背景

 前述した2種類のデザイナーがプロダクトを提供する組織内で解消しづらい問題はなにか。私は大きく分けてふたつあると考えています。

  1. 組織内でのUXや表現制作において、企画依頼側の方針やメッセージが毎回変わるため、一貫した価値観で発信されない
  2. 組織内でプロダクトの課題観や戦略が、デザイナーに共有されていない

 ひとつずつ解説していきたいと思います。まずは1の課題からです。

 この事象が起こるケースは、ユーザーの体験シナリオづくりやマーケティング施策が、短期間の売上やCV向上にフォーカスしている施策で多く見受けられます。ターゲット顧客に向けた短期施策を短い準備期間で行うなかで、重視すべき体験やメッセージ性にばらつきが生じ、ときに大事にすべきロイヤルユーザーが離れる結果を招くことにもつながります。

 プロダクトとしてもっとも大切な方針がある場合においても、売上に向き合うことが至極堅実なことと捉えられることもあります。プロダクトの一貫した価値観を発信しつづける必要性を訴えたとしても、双方の納得する答えにたどり着くのは難しいでしょう。結果的にその議論は平行線のまま見送られ、両者の関係性を悪化することにもなりかねません。

 その背景には、短期で結果をだしたいマーケティング部門側と、長期的な価値を管理するブランドマネジメント部門の間で、それぞれ異なるゴール指標に向かっているため連携がしづらい、という要因があります。この軋轢のしわ寄せが、デザインの制作依頼に影響することもあるのです。

 ふたつめの問題は、比較的規模の大きい組織内で起きやすい傾向があります。ほかの関連部署との連携がとりづらかったり、プロダクトの戦略検討会や企画検討段階にデザインメンバーが関わらない組織構造になっていることにより、戦略課題の翻訳が制作サイドに伝わらないまま制作が進んでいる状態で起こります。その結果として、企画依頼側の要望に合わせて制作しても、修正の出戻りが増えたり、体験設計や表現のベストを作りづらい環境になることがあります。

 このように、企画する側がコミットしているものにブレがあったり、戦略や課題感がキャッチアップできないといった問題は、デザインをつくる側にとっては不幸でしかありません。その原因は、きちんと段階をふんで、企画側のプロジェクト上流にある戦略をおろしていくことができないコミュニケーション不全や、サービスのどんな施策や体験においても首尾一貫した価値軸を重視しないことにあります。

 そうならないためにデザイナーが心がけること。それは、プロダクトマネージャーが抱えている重要な問題や戦略を理解し向き合い、それを解決するためのデザインアプローチを考える思考を持つことだと私は考えています。言い換えれば、デザイン制作メンバーもプロダクトの長期戦略に向き合い、ブレない価値をつくる。それを下敷きに、デザイン制作のアウトプットに意味をつなげることだと思います。

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