デザイナーのキャリアはどこを目指すべきか
これまでの連載で紹介してきた、事業フェーズに応じたデザイナーのアプローチは、どれも事業や組織に接続した課題を解決するものです。「これはデザイナーの仕事ではない」と捉える人もいるかもしれません。プロダクトをデザインする行為だけにフォーカスするのであれば、たしかにデザイナーの仕事ではないものが多いと思います。
ただ、事業やサービスを成長させていくという観点でさまざまな現場を見ていくと、少なからずほかの領域への越境が必要になってきており、そこを担える人材が必要であることも事実です。
そんな今、事業の成長に貢献するためには、ビジネスとデザインの架け橋となるポジションの開拓が求められているように思います。現時点ではまだ明確な職種や役割が与えられているわけではなく、自身の業務と並行し、課題があるからという理由で取り組んでいる人が出始めているのが現状だと感じています。
現時点では海外の事業会社でもさまざまな肩書で求人を行っており、決まった職種にはなっていません。そのほかにもこのような肩書で呼ばれるものも存在します。
- デザインディレクター
- デザインプログラムマネージャー
- UXディレクター
- UXストラテジスト
本来のデザインが担う範囲を考えると、ビジネスや開発すべての工程に影響をもたらすものと捉えることができるでしょう。デザインが事業や組織に正しく理解され、価値を発揮するためには、デザイナー自らが職種を越境することで、デザインを上手く活用してもらえる仲間を増やしていくことが重要なのではないでしょうか。
「両利きのデザイナー」を目指して
抽象的な構想やアイディアを具体化し目に見える形へ落とし込めるというデザイナーの特性は、ビジネス領域でも役に立ちます。デザインする対象をプロダクト/ブランドから、組織/事業に移すだけで、応用できる要素はたくさんあるはずです。
その際、アウトプットされるもので重要なのは、組織や事業の戦略に紐づいてアプローチできているかという点。これには、デザイナーとしての能力やスキルだけでは解決できない問題が含まれており、組織/事業の経験値やスキルも習得していく必要があります。そうして、デザイナーでありながら領域を越境した能力を身に着けていくことができれば「両利きのデザイナー」という経験を積む道もあるのではないかと考えています。
両利きのデザイナーとはなにかを説明する前に、チャールズ・A. オライリー ,マイケル・L. タッシュマンの著書『両利きの経営』に触れたいと思います。この書籍では、「探索」と「深化」のふたつのベクトルで企業経営における知を捉えており、両方をかけ合わせた経営が行えている企業ほど、イノベーションが起きる傾向があると述べています。
デザイナーにとっても、探索と深化の両立を行うことで、事業や組織の課題を解決し、成長に寄与できる存在になるのではないでしょうか。