[最終回]企業を巻き込みながら広がりを見せる、「コミュニティドリブン」なプロジェクトとは

[最終回]企業を巻き込みながら広がりを見せる、「コミュニティドリブン」なプロジェクトとは
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 本連載のテーマは「FAB」とコミュニティ。紹介してくださるのは、FabCafe TokyoでCTO兼事業責任者をつとめる金岡大輝さん。FabCafeの活動を通じて、クリエイターとビジネスプロジェクトのコラボレーションのありかたを探ります。最終回のテーマは「コミュニティドリブン」についてです。

 前回の記事でも紹介したが、FabCafeにはイベントを通じて形成されたさまざまなコミュニティがある。会員制といった縛りではなく、FabCafeに集まるクリエイター同士が、お互いの興味をもとにゆるくつながっている。コミュニティのトピックは、バイオテクノロジー、カーデザイン、ハプティックデザイン、ドローンなどが存在する。

 ここで特徴的だと感じるのが、コミュニティがプロジェクトを生み、企業を巻き込みながら広がっていることだ。単なるコミュニティ活動にとどまらず、コミュニティと企業が予算を持ちながら一緒に動く。企業が単体で何かを生み出すのではなく、コミュニティがプロジェクトを牽引(ドリブン)し、何かを生み出す――。そんな、コミュニティ・ドリブンなプロジェクトを紹介したい。

コミュニティとデザインする

 まず紹介したいのが、自動操船ヨットのデザインプロジェクトだ。このプロジェクトはeverblue technologiesという海洋ベンチャーとFabCafeが共同で行ったもので、「ADAM  -Ai Design Autonomous Multihull」と名付けられた。

 エバーブルーテクノロジーズのミッションは、エネルギーを使用しない帆船と自動航行のテクノロジーなどを融合させ、大洋を横断可能なエネルギー輸送の新たな解を生み出すこと。そしてこのプロジェクトのゴールは、その自動操船ヨットをデザインすることと、その実証実験を行う試験艇をプロトタイピングすることだった。

 しかし、自動操船ヨットのデザインが世に存在しない以上、イチから考える必要があった。そもそも自動操船ヨットは「無人で動くヨット」というコンセプトのため、一般的なヨットとは異なり、人が乗り込まないことを前提にデザインをしなければならない。そして自動航行に必要な技術の与件を整理し、技術から逆算してデザインすることも必要だ。

 そこでこのプロジェクトでは、FabCafeのコミュニティと一緒に進めていくことにした。おもにカーデザインのコミュニティメンバーにプロジェクトに参加してもらい、ワークグループを作ってプロジェクトに挑んだ。

 メンバーとして加わったのは、現役のカーデザイナー、ヨットデザイナー、航空機エンジニア、プロダクトデザイナー、3Dデザイナー、機械エンジニアら。彼らは普段別々の企業に属しながらも、このプロジェクトでは横断的に集結し、即興のワーキンググループを結成した。こうして毎週のようにFabCafeに集まりながら、まだ見ぬ自動操船ヨットのデザインに取り組んだのだ。

AIとデザイナーの未来

 このプロジェクトでは「ジェネラティブ・デザイン」という手法を採用した。これは、デザイナーがデザインするのではなく、AIを用いて、与えた条件を満たすようなデザインを行う手法だ。人が考えつかないような有機的かつ構造的に担保されたデザインを、ひとつではなく無数のパターンの群として生成することができる。

 プロジェクトでこの手法を採用した理由は、未来的なデザインを実現するためだけではない。AIとデザイナーが協業する未来を垣間見るためでもあった。

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