ポートフォリオに込めるもの
こんにちは。株式会社たきコーポレーション たき工房でデザインアドバイザーをつとめている舟木真也です。
弊社ではデザインアドバイザーの施策として、コロナ禍で今後の成り行きが不透明な中、これから社会に出る学生のみなさんへの就職支援になればと考え始めた取り組みがあります。それは、2021年3月からデザインを勉強している学生へ、ポートフォリオの作りかたに関する相談会です。
2021年4月1日時点で申し込みは30人ほど。デザインスクールの方に手配いただいたうえでウェビナー形式による個別アドバイスを行ったり、学校へ訪問し、感染対策を厳守のうえで、学生のみなさんに直接ポートフォリオの作りかたや構成のアップデートについて説明しています。
私自身、新卒採用や中途採用のデザイナーの面接に長年関わってきていたので、企業がその人の作品とポートフォリオについて何を重視しているかは理解しています。
中途採用のデザイナーならば、当然ですが自分たちが求めているレベルでの即戦力に成り得るか。社会に出ていない学生ならば、クライアントワークで収入を得ているワケではないので(中にはもう始めている方もいますが)学校の課題をどのように取り組んでいたのか。そして制作者としてデザインへの思いや熱量がポートフォリオに込められているか、表現されているかといった点がポイントとなります。
ただ、課題の作品だけで自分のデザインをアピールできれば良いのですが、いざポートフォリオに収めてしまうと、それだけでは自身のモノづくりへの興味を面接官へ伝えづらいことも否めません。自分のデザインに対する熱量をアピールするため、「モノづくりへの欲求・クリエイティブへの渇望がどれだけあるか」を言葉だけではなく、ポートフォリオに込めることができているかという点は、とても大切です。
それを伝えるために必要なことのひとつに、自主活動があります。学校の課題にはない未経験の表現、新しいテクノロジーへの興味、またそういったモノに能動的に関わったかという事実と姿勢が、自分を魅力的に見せることになり、制作者としての将来をつくる細胞になります。
デザインツールの習得も大切ですが、グラフィックデザイナー志望の学生がデジタルに興味がない、また動画クリエイター志望の学生がグラフィックに興味がないのは問題でしょう。モノをつくるという点ではどちらも同じなので、社会に入る前からクリエイティブのアンテナが少ないのは致命傷になりかねないのです。
このような背景があり、ポートフォリオ相談会では作品の見せかたや展開方法以外に、自分がいかに多種多様な表現欲求に沿って自己研鑽しているかを相手に伝えることや、そのような姿勢で作品制作に関わることの重要性も説明しました。
これは新卒のデザイナーに限ったことではなく、すでに何年も経験のあるデザイナーや前述した中途採用のデザイナーにも当てはまります。前回の記事でデザイナーとして自分のクオリティを担保するためには、社会と関わることも大切であるとお話しましたが、所属している会社や組織では補完できない制作者としての成長要素が社外にあるならば、そこに積極的に関わることはデザイナーとして極めて正しい資質です。
弊社にも、自分でプロダクトブランドを主催しているデザイナーや、映像制作集団や社外のさまざまなデザインコミュニティに参加しているデザイナーが数多くいます。そのような独自の自主活動から生まれたデザインワークを通してリアクションをもらうことができれば自信にもつながりますし、もっと上手くなりたいという気持ちが大きくなるでしょう。
関わりをもてる制作領域が広がるということは、デザイナーの新しい役割と価値を知ることであり、自分の視野を広げる活路にもなります。本業と個人制作はそれぞれ別物ではなく、どちらも影響を受けるのは言うまでもありません。
会社の仕事はある意味、自分ではコントロールできない受動態であることも多いでしょう。それに対して自主活動は「自分のコントロールだけで何かをつくる」ことが前提です。デザインをする、自ら発表する、誰からもコントロールされない。誰かに指示を受けるのではなく、自らのアクションで完結する――。普段の仕事と比べたり人から見たらとても規模が小さく見えるかもしれませんが、すべて自分でコントロールすることが可能なので、何度でもやり直すこともできるのです。