新型コロナウィルスの感染拡大は、アメリカを中心に出版・メディア業界へ大打撃を与え、多くの老舗出版社や新聞社が倒産を防ぐため、レポーターやジャーナリスト、編集者たちを一時解雇や早期退職へと追いこみました。
同時に、マスメディアが独占する業界の構造や、著名人などの発言に対して大衆がバックラッシュを浴びせる「キャンセルカルチャー」の問題を受け、編集者や会社の方針に左右されずに自分の思想を発信できる場所を求めて、新聞社や出版社から離れる人も。
そうした社会や職業柄のさまざまな要因から、「Substack」など購読型ニュースレターへと移行する書き手が増えています。
「Substack」とはなにか?
Substackは2017年に「より良いニュースの未来のため」という理念を掲げ、個人クリエイターの支援プラットフォームとして創設されました。
サブスクのツールを民主化し、インディペンデントクリエイターがビジネスとして成功する機会を提供することで、ニュース経済を一新させるという大きなビジョンを描いています。
従来のニュースレターサービスに比べ、シンプル、簡単、直感的に執筆・配信ができることを売りに急成長。
現在、月間アクセス数は1,200万人、有料購読ユーザーは50万人以上。とくに新型コロナウィルス感染拡大の影響で、2020年度は有料購読ユーザーが5倍に増加しました。Substackのトップ10ライターたちは、合計1,500万ドル以上の収益をあげており、それぞれ数万人の購読者を抱えています。
Substackの収益源は有料ニュースレターの購読料の10%で、クレジットカード手数料をのぞけば、すべてのサービスを無料で使えるようになっています。同時に、ニュースレターをブログ形式で一般公開することもでき、そこではコメントやいいね機能が組み込まれているため、ニュースレターとブログの「良いとこ取り」を体現。
ライターだけではなく、アーティストや音楽、ポッドキャスターなどあらゆるクリエイターのニーズに応えています。
なぜ、Substackはこれほど急成長しているのか
Substackは、自分の好きなクリエイターのコンテンツに読者が直接アクセスし、購読料を支払うことを可能にしました。
これにより、自分が信頼するライターによってあらかじめキュレーションされたコンテンツが手に入り、「情報洪水」に呑まれるのを防ぐ側面があります。
また、自分の購読したいコンテンツを選択し、それに対価を支払うことで、より自覚的に自分が接する情報を選択したいというニーズに着目したことも、急成長のひとつの要因でしょう。
ニュースレターの歴史と魅力
ニュースレターの近代の歴史は、1930年のロンドンにまで遡ります。
世界最古の日刊紙「The Times」の国際特派員だったClaud Cockburn氏は、会社の保守的な思想にうんざりし退職。しかしフリーランスになってからも、世界各地で起きているナショナリズムの台頭に対するメディアのアプローチに悩まされていました。
そんな中、自らのスキルを駆使し、ニュースレターを創刊。自分自身をブランド化することに注力しました。
1933年3月に創刊号を発行し購読者に配布したところから、このニュースレターモデルが普及。Cockburn氏は従来のメディアに背を向け、簡易な印刷装置「ガリ版」を使って読者に直接届けるという新しいジャーナリズムのありかたを示しました。
同時に1940年代ごろから、独占的でリベラルに反する保守的な政治の砦になりつつあったマスメディアに対する社会の信頼が揺らぎ始めました。この時期にも多くの有名なニュースレター(George Seldes氏の『In Fact』やI. F. Stone氏の『I.F. Stone's Weekly』など)が生まれました。
ニュースレターは、マスメディアへの抵抗と書き手の自由な可能性を促進する媒体として知られるようになりました。同時にインターネットの普及とともに、数千人もの人びとに容易にメールを送信できるようになったことで、企業の良きマーケティングツールとしても活用されてきました。
ニュースレターはニッチな分野にフォーカスした情報提供・コンテンツ制作を可能にし、それに付随するコミュニティベースも構築できることから、自分のブランドを構築したい個人クリエイターにとっては恰好のツールとなっています。
自分のメール受信箱に直接届く情報とオピニオンは、SNSのタイムラインを流れていく断片的なコンテンツや、アルゴリズムによって選ばれ、表示されるそれとは一線を画すため、「自分が選んで購読している書き手の言葉である」という一種の自律性もその特徴。
逆に物議を醸したり、過激な発言をする書き手からは購読解除するだけで簡単に距離を置くことができる。購読者が減れば、それは書き手への大きなフィードバックとして伝わります。