国内外のエンジニアとの協奏を目指す「デザイン推進室」を発足
こんにちは。ラクスル株式会社のデザイン推進室室長・水島です。本連載では、デザイン経営について皆さんにお伝えしていきます。今回は、デザイン推進室の立ち上げ背景や取り組み、今後の展望などについてお話しようと思います。
ラクスルが、デザイン経営のさらなる進化につなげようと「デザイン推進室」を立ちあげたのは、2020年11月のことです。デザイナーの力を最大化させる仕組みづくりが、重大な経営課題となったからです。
ラクスルでは、2017年から顧客中心のプロダクト開発(User Centered Design)をスタートし、人の情緒に訴える「感動的なユーザー体験を与える会社」を目指してきました。(第1回記事参照)2020年にはベトナムやインド拠点の立ち上げにより、優秀な外国籍エンジニア人材の採用にも着手。テックカンパニーとしての非連続な成長をもたらしています。
ただ、そこで生まれたのが、開発スピードにデザイナー組織の拡張がついていけなくなったという課題でした。プロダクトは、エンジニアとデザイナーの協奏ではじめて出来あがります。しかし、事業部主導でプロダクトを動かしていると、国内外のエンジニアの多さからデザイナーがオーナーシップを持ちづらくなり、それによって顧客中心のプロダクトから離れてしまう懸念が出てきたのです。
では、海外拠点にエンジニアと同じように海外のデザイナーを増やせば良いかというとそれも難しい。そのひとつの要因は、現在ラクスルが手がけるBtoBプラットフォームはすべて国内企業向けであり、印刷、広告、物流など、日本独自の商習慣が根強い産業領域をベースにしていることです。バーティカルマーケットプレイスやバーティカルSaaSと呼ばれる業界特化型のサービスのため、業界のペインを理解しプロダクトに反映する際には、日本独自の商慣習を理解したデザイナーであることが重要なのです。
さらにラクスルには、コーポレートデザインをはじめ、企業アイデンティティへの投資が弱いという課題もありました。複数事業を展開するグローバルカンパニーになるために、強いビジュアルデザイン、コミュニケーションデザインのガバナンスと実行力は欠かせません。
こうして、増え続ける海外エンジニアと協奏できる“最強のデザイン組織”をヘッドクオーターに作るためにデザイン推進室が生まれました。
「デザインもできるマルチ人材」の育成と輩出を目指して
デザイン室ではなく、あえてデザイン“推進”室としたのは、「デザイン思考を推進し、体現しながらコーチングする人の集団」を目指しているからです。私たちが見据えているのは、「全社員プチデザイナー化」です。
現在、デザイン推進室には9名のデザイナーが在籍しています。副業や業務委託などさまざまな形態でプロフェショナル人材が関わっていますが、全員が「デザイナー」であり、ゆくゆくは「デザイン思考推進のリーダー」になることが目標です。
デザイナーがリードしながらエンジニアがデザインを手掛けてもいいし、ビジネスサイドが広告のクリエイティブを作ってもいい。デザイナーが他職種にデザインスキルを伝授していけるようなクリエイティブ集団にしていきたいと考えています。
職種に関わらず、全社員が一定のデザインスキルを持つことは、常にアート思考を意識することにつながります。ビジネス思考、システム思考、デザイン思考のうち、アート思考の視点を多く含むデザイン思考は、ビジネスの世界で軽視される傾向があるように思います。しかし、事業を考えるときに、絵を描いて「視覚的にいいね」「素敵」「カッコいい」という捉えかたがあってもいい。その美意識を全社員に求めることは、デザイン経営を進めるうえで非常に重要なプロセスだと考えています。
実際に、デザインも実装も高速に手掛ける「デザインエンジニア」という職種も生まれ始めています。デザイン推進室が、基本的なデザインのガイドラインを作成・周知し、ノウハウを伝える仕組みづくりを進めることで、デザイン思考とスキルを持ったマルチ人材を社内に生み出していく。彼らと優秀な海外エンジニアとの協業が進めば、より組織がスケールアップされると考えています。