こんにちは。アドビの阿部です。本連載では、これからのポストコロナの世の中で求められるクリエイターの姿とは、をテーマにお届けしていきます
2021年4月にアドビの代表取締役社長に就任した神谷知信は、今年6月に開催した事業戦略説明会で日本独自のビジョン「心、おどる、デジタル」を打ち出しました。今、世の中ではDX(デジタルトランスフォーメーション)が大ブームですが、この連載を通して、私はクリエイターの皆さんとともに、それぞれが持つ創造性を存分に発揮できる企業のデジタル変革について考えていきたいと思います。
クリエイターを取り巻く環境変化は10年周期
現在のアドビは、大きくふたつのビジネスを展開しています。ひとつはクリエイター向けの製品を提供するビジネス。もうひとつがマーケター向けの製品を提供するビジネスです。私のアドビでの社歴は比較的長い方ですが、最近のお客さまの動向をふまえ、このふたつのビジネスを同じ方向に収斂させようとする動きが見えてきました。
私は、アドビが展開している両方のビジネスに関わり、一貫して市場開拓をしてきました。お客さまのやりたいことを聞き、アドビとしてできることを提案し、一緒に実行する仕事です。これを通じて、私はマーケターやクリエイターの方々と多くの接点を持つ機会に恵まれました。私自身はクリエイターではありませんが、これまでのキャリアを振り返ると、常にクリエイターを取り巻く変化の波打ち際にいたような感覚を持っています。
どういうわけか、私はアドビが買収したいと思う会社に縁があり、アドビの前はMacromedia(2005年にアドビが買収)、さらにその前はAldus(1994年にアドビが買収)で働いていました。
一連の経験を通して言えるのは、クリエイターを取り巻く環境がちょうど10年単位で変化してきたということです。アドビに買収される前のAldusは、紙媒体の出版物のデザイン業務をコンピューター上で行うDTP(DeskTop Publishing)市場を創り出した会社でした。それ以前は、「ここに写真」「ここに文字」などのディレクションを示す指示書を作って、担当に渡すまでがクリエイターの仕事だったのを、大きく変革したのがAldusだったのです。DTP市場が生まれた結果、クリエイターには文字を組むスキルや写真を加工するスキルも必要になりました。
1990年代にDTPが定着していく中、並行して「インターネットの商用化」が始まっていました。当初は「メールって、便利だね」「これならFAXはいらなくなるね」と話題にする程度だったものが、2000年代に入り広告媒体として驚くような成長を遂げます。とくに私がMacromediaにいた頃はバナー広告の全盛期で、インターネットがメディア化した時代でした。
そして2020年代を迎えた今、「個人のメディア化」と言われるように、中央集権的だったメディアの分散が進んでいるのではないかと考えるようになっています。