[新連載]ユーザーにとって価値のある広告クリエイティブ、その現状と課題とは

[新連載]ユーザーにとって価値のある広告クリエイティブ、その現状と課題とは
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過去から現在に至るまで、デジタル広告市場にはさまざまな"広告デザイン"があふれています。感情を揺さぶられたり、思わず魅了されてしまうほど心に響く広告もあれば、短期的な成果を求めるがあまりユーザーに誤解を招く表現や、目的もなく大量の配信を行うクリエイティブもあり、それらはユーザーやクライアントの価値に紐づいていない場合もあります。本連載では株式会社アドウェイズにてクリエイティブ部門の責任者を務める遠藤由依さんが、デザイナーを取り巻く現状や課題を紐解きながら、ユーザーにとって価値のある広告を作っていくために必要なことを伝えていきます。

 はじめまして。インターネット広告企業である株式会社アドウェイズで、クリエイティブ部門の責任者を務めている遠藤です。

 私たちにとって、スマートフォンはいつも身近な存在です。日々の生活でもビジネスにおいても常に欠かせないデバイスであり、ほとんどの人はスマートフォンを持たない生活を「想像できない」と考えるのではないでしょうか。

 そして、そのスマートフォンでアプリやウェブサイトを閲覧していると、必ずと言っていいほど表示されているのが「デジタル広告」です。

 本連載では、このデジタル広告における“クリエイティブのありかた”について、現状や課題点などを考えていきながら、ユーザーにとって価値のあるクリエイティブとは何か、どのように考えて作っていくべきかなどについて、深掘りをしていきたいと思います。

この10年で大きく変わった、デジタル広告のクリエイティブ

 スマートフォンが世の中に普及をし始めて約10年。私たちの生活スタイルは大きく変化をすることとなりました。それにともない、デジタル広告の表現方法の幅もより広がりました。

 大きな影響を及ぼしたもののひとつに、テクノロジーの進歩があります。デバイス自体の進化はもちろん、3Gから4G、そして5Gへと通信規格の変革もありました。それらのおかげで広告も、静止画やGIFアニメを利用したバナー広告配信から、高画質な動画を利用した広告をユーザーに届けることができるようになるなど、よりさまざまな表現が可能になっていきます。

 また、高性能なスマートフォンをたくさんの人が持つようになったことで、ユーザーのインターネットへの接触時間がオフラインメディアを大きく上回るようになりました。そのため広告主は、デジタル広告に対して大きな予算を割くようになっていきます。

 以前、電通から発表された調査レポート「2019年 日本の広告費」にて、デジタル広告費が初めてテレビメディア広告費を上回ったことが明らかになりました。ユーザーとの接点を作ろうとするナショナルクライアントが、デジタル広告に対し、過去よりも大きな予算を投じるようになったのです。

 そのためこれらの変化を考えると、表面的にはデジタル広告の未来への期待は高まっている状況に見えるかもしれません。しかし実は今、そのありかたに対して疑問の声が多く挙がっています。

改めて考えたい、広告がもつ本来の価値

 皆さんは、デジタル広告に対してどのような印象をお持ちでしょうか。

 しつこい、邪魔、不快……。こういったネガティブなイメージを持たれるかたが、実際は大半なのかもしれません。

 インターネット上では、広告事業者があらゆる形で「利益を得る」ことが可能です。残念ながらデジタルマーケティングの世界にも、広告事業者が自社の短期的な「利益」だけを目的に、人をだますような過剰な表現や不快に思わせてしまう広告クリエイティブが多く存在しているのが現状なので、ネガティブな印象を持つ人がいることは自然なことかもしれません。

 しかし本来、広告とは、普段の生活では目にすることがなかった情報に偶然出会える喜び、いわば“セレンディピティ”をユーザーに提供することができる貴重な存在です。自分の知らないことを知ることができ、人の心を動かすことができる――。広告は、生活する人々にとって大きな“価値”のあるものだと思っています。

 とは言っても、デジタル広告に対するイメージはなかなか改善しない状況が続いています。なぜこのような事態になっているのでしょうか。次からは、デジタル広告やクリエイティブの課題点について考えていきたいと思います。

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