前回は企業のTikTok活用の歴史をハイプ・サイクルになぞらえて解説しました。第2回となる今回は、「TikTok売れ」の現象に潜むZ世代のユーザーインサイトを紐解いていきたいと思います。
2020年代の1大消費トレンド「TikTok売れ」とは
「日経トレンディ2021年12月号」で発表された「2021年ヒット商品ベスト30」で、見事1位を獲得した「TikTok売れ」のキーワード。「地球グミ(お菓子)」「ファイブミニ(飲料)」「残像に口紅を(小説)」など多様なジャンルの商品が、TikTokをきっかけに飛ぶように売れたことからこの言葉が誕生しました。
なぜTikTokでモノが売れるのでしょうか。今回の連載にあたり、TikTokでバズり、売れゆきが跳ね上がった商品とその関連投稿について分析してみると、興味深い傾向が見えてきました。
それは「体験享受の欲求」と「体験ステータスへの欲求」です。それぞれ解説していきます。
リアルでユニークな「体験」を求めているZ世代
TikTokで売れた商品の共通点として、ユニークな体験をまとっていることが挙げられます。
たとえば、「地球グミ」であれば、「歯で噛んでパッケージを開ける→ぷるんとした質感のグミが出てくる→食べ終わると舌が青くなっている」といった開封から実食までの一連の体験が、TikTok上で豊かな質感やビジュアル表現をともなってコンテンツ化されていることがわかります。
また「ファイブミニ」は「のんだ次の日すっきり」、「めっちゃ出る」といった、おなかの調子に関する効果を示すコメントが、かわいらしい色味のパッケージとともにコンテンツ化されています。
「残像に口紅を」であれば、著名なTikTokクリエイターが「衝撃的な一文から始まる」、「小説内で少しずつ言葉が消えていく」というように、プロットではなく、物語の読書“体験”にフォーカスする形で紹介したことでバズが生まれました。
このように、TikTokで飛ぶように売れた商品は、その商品を購入し利用する過程で得られる“体験”が、ユーザーによって非常にユニークにかつリアルに表現されている、という特徴があります。
このことから、TikTokのユーザーが多いZ世代の間には「体験への欲求」が存在していることがわかります。以前寄稿した記事でも解説しましたが、Z世代は「乾けない世代」です。モノが飽和し、大体のモノが安価に手に入る現代では、Z世代にとって「欲しいもの」はほとんど存在しないのです。しかし、そんなZ世代でもなかなか手に入れることができないのが、ユニークでエキサイティングな“体験”です。
TikTokは独自のレコメンドシステムによって、ユーザーの興味関心にもとづいた動画コンテンツが次々に送り込まれてくるUIになっています。YouTubeと違い、サムネイルとタイトルから内容を判断する必要がないため、そもそもコンテンツそのものがユーザーに届けられやすい。かつ、情報量の多い動画形式であるがために、TikTokはほかのプラットフォームと比べると非常に“体験”が届けられやすいプラットフォームであると言えるでしょう。
このように、Z世代が潜在的に抱いている「体験への欲求」と、TikTokのUIに馴染む形で表現された豊かな「商品体験」がうまく噛み合い、結果として大きな購買促進が呼び起こされた――。これが、「TikTok売れ」の背後にある大きな構造であると考えています。