こんにちは。株式会社Nateeで取締役COOをつとめている朝戸です。今回から全4回にわたって企業のTikTok活用をテーマにお伝えしていければと思います。
初回では、日本企業におけるTikTok活用の歴史について解説します。
先に結論からお伝えすると、テクノロジーが社会に段階的に受け入れられていく様をモデル化した、ガートナーの「ハイプ・サイクル」を、日本に上陸してから現在に至るまできれいになぞってきたものがTikTokであると私は考えています。もう少し具体的に言うなら、TikTokは「黎明期」、「流行期」、「幻滅期」を乗り越え、ちょうど今「回復期」に位置していると言えるでしょう。では実際に、TikTokがそれぞれの期間をどのように辿ってきたのか、紐解いていきましょう。
若年層の心を掴んだ黎明期(2017年夏〜2018年春)
TikTokが日本に上陸したのは今から約5年前、2017年の夏ごろです。当時は「若者が歌に合わせて踊っている動画のプラットフォーム」というイメージが強かったと思いますが、実はこのイメージは戦略的につくりだされたものです。というのも、SNSやプラットフォームが海外展開するときのセオリーが「新しいものを歓迎する若年層をまず取り込む」だからです。
InstagramやYouTubeも初期は若年層を中心にユーザーを広げていました。TikTokもそのセオリーに則り、とにかく若者が好んで使い、話題にするようなムーブメントを仕掛けていきました。
とくに「リップシンク」と呼ばれる、特定のBGMで口パクや振り付けをするといったコンテンツフォーマットは、「真似するだけでいいので手軽」、「振り付けやサウンドがかわいくてキャッチー」、「友達と一緒に楽しめる」などの要素から若者の間で大いに流行し、順調にユーザー数を伸ばしていきました。これが2017年夏から2018年夏にかけての「若年層の心を掴んだ黎明期」です。
イノベーター企業が話題を生んだ流行期(2018年夏〜2019年冬)
プラットフォームが順調にユーザー数を増やし話題を集めていくと、イノベーター企業はそのプラットフォームをビジネス活用できないかと目をつけ始めます。こうして2018年夏頃から「#チャレンジブーム」がスタートしました。
「#チャレンジ」とはTikTok内にある象徴的な広告メニューで、「ユーザー参加型のプロモーション」を行うことができるものです。著名大手企業がそれぞれユニークなハッシュタグ、楽曲、振り付けを考案し、時にはコンテストのような催しを実施するなど、ユーザーが盛り上がる工夫を施した施策を行いました。
しかし、上記試みには限界がありました。「かかる労力に対する実益が少なかった」のです。楽曲や振り付けをいちから考案したり、ユーザーがしっかり参加してくれるような仕掛けを施すのはとても新しく、かつ非常に骨が折れる取り組みです。
一方リターンをよく見てみると、当時はまだ購買力の小さい若年層がユーザーの大半を占めていたり、TikTok上で購買が起こるメカニズムが解明されていなかったこともあり、「施策は盛り上がったが購買には結びつかなかった」というケースもありました。
結果として、TikTokを継続的に活用したり、リソースのない企業が挑戦することへのハードルが高いとの認識もあり、TikTok活用は徐々に下火になっていきました。これが2018年夏から2019年冬にかけての「イノベーター企業が話題を生んだ流行期」です。