イラストを“活かしきる”ために――プロダクトライフサイクルから考える価値とストックサービス参入の心得

イラストを“活かしきる”ために――プロダクトライフサイクルから考える価値とストックサービス参入の心得
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 イラスト、デザイン、コンサルティングの3つを柱として活動するユニット「rala design」。代表兼デザイナーをつとめる青木孝親さんが、長年イラストレーターとともに二人三脚でプロダクトづくりをしていくなかで見えた、イラストとの付き合いかた、イラストの楽しさなどについてお伝えします。第4回は「イラストの寿命」がテーマです。

 皆さんはクリエイターから納品物を受け取った時に、その納品物の「寿命」を意識することはありますか? 世の中に生み出された製品・サービスの売上や認知度などが、どのような変化を経て市場から消えていくのかを調査・研究したりしますが、それと同じイメージです。

 マーケティングの言葉で言えば「プロダクトライフサイクル」のようなイメージで捉えるとわかりやすいでしょう。新発売した製品やサービスが市場に広まるように地道な努力と投資を続ける「導入期」、世間の注目度と売上がどんどん高まる「成長期」など、時系列上での変化をいくつかの局面で切り分けて、そのときどきに適した施策を講じられるように分析する考えかたです。

 私は「寿命」について、イラストのような著作物においても、プロダクトライフサイクルというマーケティングの概念を利用することで、1枚のイラストを有効に活かしきることができるのではないかと考えていました。

 話を少し鳥の目線まで引きあげますが、イラストレーターの仕事や彼らが所属している会社を成長させるためには、どのようなことが必要でしょうか。継続的に案件を受注したり、イラストの単価アップに挑戦したり、ファンと言えるようなクライアントを増やしたりしなければなりません。そしてそれらの実現には、当然ながら納品物の価値を上げる必要があることは、比較的早い段階から理解していたつもりです。

イラスト作品を“活かしきる”という発想の原点

 rala designとして仕事を始めたころは「イラストの価値」という整った思考もなく、「せっかくなら、1枚のイラストをもっと有効に使えないものかねぇ」とボヤキのような言葉を口にするくらいでした。

 どうすればイラストの価値を上げることができるのか。そして1枚のイラストを活かしきるためにはどうしたら良いのか――。そんな自分の問いに対して、信念をもって選び取ることができそうな選択肢は、当時思い浮かべられませんでした。価値を上げるには「イラストを上手く描く」、イラストを活かしきるには「より多くの人の目に触れるようにする」といったおおざっぱな発想です。

 しかしそんな私ですが、イラストの案件が舞い込めば、私のとなりで苦労しながら絵を仕上げようと努力するイラストレーターを見ていましたので、その大変さは自分のことのように感じていました。そして、次から次に自信作を生み出せるほど計画的に進められる作業ではないことも知っていました。ですから、苦労してできあがったイラストは大切にしたい、活かしきりたい、という気持ちが徐々に強くなったのです。しかし活かしきると言っても、何を、いつ、どうすれば良いのか、大海原に放り出されたような気分になってしまいます。その糸口を探るために、イラストにはどのような活用の仕方があるのかを少し調べてみることにしました。

 そこで、マーケティングに興味を持っていた私は、プロダクトライフサイクルの曲線を思い浮かべ、イラストの一生を活かしきるような価値の高めかたや、寿命そのものを延ばす方法はないかということを、自分なりの研究テーマとして考えを深めていきました。

 そうしている間にもイラストレーターは、自分の絵の価値が高まるように技法を調べて学んだり、以前よりも丁寧さに気を配ったりして作品のクオリティーアップに努めていました。一方、イラストを使用する側である私の役割は、ビジネスの側面からイラストの価値を高められるように、クライアントや経営者としての視点を織り交ぜながら、1枚1枚のイラストを効率的に活かす方法を模索することにしました。

「イラストの価値推移」を時間軸で検証

 まずは広い視野から活かしかたをとらえるために、イラストの活躍パターンを把握しておきます。プロダクトライフサイクルの観点から3つのパターンにわけましたので、整理しておきたいと思います。縦軸がイラストの売上や活躍度合い、横軸は時間の経過だとして、パターンの特徴をそれぞれのタイトルに表しました。

パターンA.一気にピークを駆け上がり、その後スッと低下して使命を終える

ひとつめは、企業の新商品やプロモーションに使用されたり、単発の印刷物で使われたりといった「短期間に多くの人の目に触れる使われかた」です。有名なイラストレーターの作品が、Tシャツにプリントされて発売されるなどがイメージしやすいかもしれません。

1枚のイラストが集中的に複製されて広範囲に影響を及ぼし、「あそこでもこのイラスト見たね」「ここでも使われてるね」と露出も華やかで、花火のような存在です。規模の大小はありますが、ほかのパターンと比較して“影響範囲”が広くなりやすく、イラストレーターとしては思い出や実績に残ります。イラストを「一気に使い切った」ような心持ちになるパターンです。

パターンB.初期にピークを迎えるが頂点は高くなく、何十年も同じイラストが使われ続ける

たとえば、老舗パン屋さんの看板やトラックに描かれているイラストなどが、わかりやすい例ではないでしょうか。この場合の“大切な”使われかたは「時間」です。描いた本人すら感心するくらい長く使われ続けるケースも多々あります。

このパターンでは、微細な変更をイラストに加えることもあります。マンガにおいても主人公の顔が、第1巻から第50巻まで比較すると徐々に変化していることがあるように、一旦納品したイラストやキャラクターであっても、時代の変化に合わせて微調整していくのです。

ただ、これはイラストレーターにとっては精密な描き直しと同じことになりますので、1からイラストを描く手間とあまり変わりません。ですので、新しい納品物として再度報酬額を支払ったほうが良いように思います。

パターンC.なだらかな丘のように起伏が少なく、少しずつ報酬を積み上げていく

パターンAとBは、クライアントのために描くオーダーメイドのイラストを想定していますが、こちらは事前に用意されたイラスト群の中から、ユーザーが目的に合うものを選んで購入するパターンです。イラスト素材やストックサービスと言われる分野で、自分のイラストが使用(実際にはダウンロード)されるたびに報酬が積みあがっていきます。1枚のイラストを複数のユーザーに使ってもらう必要がありますので、おのずとマスマーケットを意識したイラストに最適化することになります。このパターンの場合、イラストを大切にすることは、すなわち“使用回数”(ダウンロード回数)を増やし、多くのユーザーに使ってもらうことと同義でしょう。

個性あるテイストや世界観を売りにして掲載したい場合には、イラストレーターの名を売るための広告的な場所として捉えたほうが良いかもしれません。またイラストレーター側では使い手(ユーザー)を指定することが難しく、イラストの影響がどの程度まで広がるのか予想がつかないというマイナス面もあります。

 rala designでもストックサービスにイラストを掲載し、収益源のひとつにすることを検討したときがありました。結果として参入を見送ったのですが、考える過程でいろいろと調べ、どのように収益を増やしていくのが近道なのかをシミュレーションしたことがあったため、ここからはその導入部分を共有したいと思います。