焼成収縮率が約1% 3Dプリンター用セラミック造形材「BRIGHTORB」とは
――まずはみなさんのご経歴、担当されている業務のご紹介をお願いします。
横山 私が所属するAGCセラミックス株式会社は、ガラスなどの素材メーカーであるAGC株式会社の子会社で、ガラスの製造に必要な耐火物を製造していた部門が2002年に分社化したものです。私は2006年に旭硝子(当時社名)からAGCセラミックスに異動し、2020年からBRIGHTOBを扱うアディティブマニュファクチャリング室に移りました。今はおもに営業を担当しています。
脚田 私は2003年に旭硝子(当時社名)の建築ガラス部門に入りました。2013年にAGCのコーポレート組織に移り、新事業開拓として太陽電池用のガラス基板などを担当したのち、2017年にAGCセラミックスに異動。それ以降、BRIHGTORBの事業で営業とマーケティングを担当しています。
田家 私はAGC株式会社のコーポレート部門に所属し、AGCグループ全体のデジタルマーケティング支援を行っています。AGCには5年前にキャリア入社で入り、それ以前からデジタルやデータサイエンスを活用したマーケティングに携わっています。
――では、3Dプリンター用セラミック素材である「BRIGHTORB開発の経緯や背景をお聞かせください。
脚田 我々はガラス炉用耐火物を製造しており、その製造工程で出てくる副産物をリサイクルしたもの(製品名はFINE-Bz)をBRIGHTORBの主原料としています。FINE-Bzは10年以上前から鋳造メーカーが鋳型材として活用しているセラミック粒子なのですが、それを主原料に硬化材料を混ぜるなどして、3Dプリンター用造形材を開発しました。鋳造業界では、鋳型をつくるための型(木型)をつくる職人の減少や、3Dプリンティングで鋳型をつくる方が木型をつくり鋳型をつくる従来法よりも速いといった利点から、3Dプリンター導入の流れが始まっていました。そこで、3Dプリンター用造形材として、2017年からBRIGHTORBの販売を始めたという経緯です。
横山 はじめは鋳造用が中心でしたが、2019年に世界最大規模の家具見本市「ミラノサローネ」にBRIHGTORB製のタイルを出展したころからデザイナーさんのアイディアを形にしていくクリエイティブ用途への展開も始めました。今は鋳造用を「エンジニアリング」、アート・デザイン用を「クリエイティブ」として、ふたつの方面に展開しています。
――エンジニアリングとクリエイティブにおける顧客の反応はいかがですか?
脚田 エンジニアリング用途は、非常に苦労しながら進めている状況です。デジタル化が進んでいる鋳造会社は、3Dプリンターに読み込ませる3Dデータを日常的に作成していることもあり、データ提供を受け、弊社が3Dプリントするケースが比較的スムーズに進みます。
一方3Dデータ作成に不慣れな会社さまの場合は、3Dデータ作成から難儀します。各会社さんの鋳型の設計におけるノウハウも3Dデータづくりに活かしながら改善を繰り返すなかで、成功事例も出てきた。現在は一定のお客さまに導入いただけるところまでこぎつけています。ただ鋳造業界は鋳型に求める特性が多種多様なので、まだまだ材料と3Dプリンター機自体の開発や改善が必要だと感じています。
横山 クリエイティブの領域は、イメージしたとおりのものを作ることができる点でデザイナーさんに喜ばれています。BRIGHTORBのいちばんの特徴は、焼成収縮率が約1%と非常に小さいこと。一般的な陶器は焼成収縮率が10%以上と大きいために焼成時の割れや変形による不具合が発生しやすく、設計に制約がありますが、BRIGHTORBには大きな自由度がある。BRIGHTORBを3Dプリンティング時に活用すれば、これまでの陶器では難しかった複雑で繊細な形状や、大型造形も実現できます。