“被害者意識”を抜け出せた、デザイナーとしてのターニングポイント
――まずは、ご経歴からお聞かせください。
もともとは制作会社でウェブデザイナーとして5年ほど働いていましたが、マネージャーとしての役割を求められ始めたころ、「まだ自分で作りたい」との思いから独立。フリーランスとして少し活動をしていました。ただ、会社で仕事をすることとひとりで仕事をすることでは取り組める範囲がまったく異なり、「デザイン」だけの成長では物足りないと感じるようになったことを機に組織に戻ることを決意。次は事業会社のインハウスデザインにチャレンジするべく転職活動を始め、そのなかで出会ったのがマネーフォワードでした。
当時のマネーフォワードは創業から1年半ほどのスタートアップで、社員はたしか20名ほど。面接を通じて感じた「ハートフルさ」に惹かれ、社員としてはひとりめのデザイナーとして入社しました。
制作会社でクライアントワークの経験を積んでいたため、さらに責任を持ってデザインをしてみたい、会社全体のデザインにも携わりたいとの思いでジョインしましたが、当時のマネーフォワードにはほとんどデザインが浸透していませんでした。制作会社では比較的「花形」であったデザイナーも下請けのようになってしまっている……。それが最初のカルチャーギャップでした。メンバーからの依頼も「バナーを作ってほしい」「この資料をきれいにしてほしい」「写真のレタッチをしてくれ」といった感じでしたね。
こういった、デザイナーが上流から関われない状態は数年続いたのではないでしょうか。当時はちょうど「デザイン経営」が広まり始めたタイミングでしたが、私自身も「デザインを経営に活かすためには何をすれば良いんだろう」と悩んでいた時期でした。
――そういった状況を、どのように打開していったのですか?
まず、私たちもゴールをともにする仲間だと感じてもらうために、実績を作って信頼を得るべく、デザインに限定せず何でも取り組もうと思っていました。デザインが貢献できる領域を増やさなければいけないと考えていたんです。それまでは行われていなかった創業を祝うイベントや現在は半期に一度開催している全社総会の前身となるミーティングを運営するメンバーになることから始めました。当時は「デザインは会社の役に立てる」ということを周りにわかってほしかったのだと思います。ただそんなとき、ある役員の言葉が私のターニングポイントになりました。
わかってもらえていないと思っているのはデザイナーだけじゃない。みんな同じように悩んでいるのだから、自分たちができることをちゃんと示す必要があるんだよ――。そんな趣旨だったと思います。
当時の私は勝手に、「デザインのことを全然わかってくれない」「デザインを軽くみている」といった被害者意識のようなものがあった気がします。ですが、まったくそうではない。今までいろいろな業界で働いてきたメンバーが集まっていて、デザイナーと関わったことがない人も多い分、何ができるのかを私たちからしっかりプレゼンテーションしなければいけないことに気づかされました。そこから、取り組みかたも大きく変わっていきました。