電通は電通デジタルと、電通のコピーライターが長年培ってきた思考プロセスを人工知能(AI)に学習させた広告コピー生成ツール「AICO2(アイコ ツー/AI Copy Writer 2)」を開発した。コピーライターの知見を集約したAIと、人間のコピーライターが良きパートナーとなることで、属人的ではない多様な表現が可能となり、広告コピーの品質向上につなげる。また、「AICO2」は、独自技術として特許を出願中。
背景
ChatGPTに代表される生成AIの登場によってさまざまな体験が可能になり、広告コミュニケーション領域においても生成AIは欠かせない技術になりつつある。国内電通グループでは、初代「AICO」の開発をはじめ、2015年から広告制作における生成AI活用について研究開発を続けてきた。
電通のコピーライターが考案したコピー約1万作品を学習した初代の「AICO」は、人間のコピーライターに多くの発想をもたらしてくれる一方、利用を繰り返すと過去のコピーと類似したものを出力したり、テーマとかけ離れたコピーを生み出したりする傾向があるなど、表現力に限界があった。
一方、近年では、ChatGPTに代表されるような、膨大なテキストデータを学習したLarge Language Model(大規模言語モデル、LLM)を活用したコピー生成も一般的に行われるようになってきた。しかし、時代を動かしたり、商品の魅力を発見したりする名作コピーや心に響くコピーを生み出すには、LLMをそのまま利用するのではなく、コピーライターの知恵や経験による、LLMのさらなる進化が必要であった。
メディア説明会でクリエイティブ領域におけるAI活用について解説をしたのは、電通 CXクリエーティブ・センター センター長/エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター 主席 AI マスター 並河 進氏。AIと人間の関係について、次のように語った。
「私たちが考えるAIと人の関係性は、AIの知が人間の知を高め、AIの知が人間を高めるものです。ポイントは、『人間の思考プロセスでAIを強化する』こと。AIとdentsu Japanのクリエイターがともに高め合っていくことを目指していきたいです」
「AICO2」の概要
「AICO2」には、電通のコピーライターが培ってきた、心の琴線に触れるコピーを生み出すための思考プロセスや推論能力を高めるべくFine-TuningしたGPT-3.5 Turboモデルが実装されている。コピーライターが考えたコピーだけではなく、コピーライターの意図や思考プロセスも学習させた。これを同社では「創造的思考モデル」と呼び、さまざまなAIソリューションに導入し検証している。
電通 CXクリエーティブ・センター エクスペリエンスニュートラルデザイン3部 クリエーティブ・ディレクター/コピーライターの川田 琢磨氏はAICO2のいちばんのポイントを「『伝えたいこと』をコピーに変換するといった、ライターの思考回路のなかでもブラックボックスになっている部分を学習させた点」だと語る。
川田氏はそういった思考の過程を学習させることができる理由について、以下のように続けた。
「電通には、先祖代々受け継がれてきたコピーの書きかたのノウハウが蓄積されているため、そこを上手く学習させました。そのお題として使ったのは、電通の資産に帰属する3つの群です。ひとつは、『新人研修の課題として提出されたキャッチコピー』。ふたつめは、1988年より毎年社員を対象に人権などに関するコピーを募集する取り組み『人権スローガンの応募作』、3つめが人権スローガンと並行して行っている『SDGsスローガンの応募作』です」
「AICO2」に、キャッチコピーとして「伝えたいこと」や「商品名」「解決したい課題」などを入力すると、「伝えるべきこと」と「表現方法」が理由とともに表示される。認知・共感を目的としたブランディング領域のキャッチコピーを高い品質で瞬時に生成できるだけではなく、より心を動かすコピーの生成が可能になる。
また「AICO2」は、「AICO2」が作成したコピーを自動で採点し、一定の基準に達したもののみ出力する機能も実装している。単に数多くのコピーを生成するだけではなく、質の高いコピー案から人間のコピーライターがさらに高い次元の発想作業に取りかかる手助けをしてくれる。
再び登壇した並河氏は、今後の展望について次のように語り、パートを締めくくった。
「AIによる効率化はさまざまな場面で耳にしますが、それだけではなく、創造性を拡張する部分にも取り組んでいけたらと思っています。電通内もそうですし、AIの力ですべての企業にあるクリエイティビティを引き上げていきたいです」