仮説と可視化のカタルシス――仮説生成の技を磨くためのポイントとは

仮説と可視化のカタルシス――仮説生成の技を磨くためのポイントとは
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 軽やかに活躍し続け、組織や社会をしなやかに変化させていくために、そしてさらなる高みを目指すために必要な変化とは何でしょうか。本連載では5年目からのデザイナーに向け、その典型的な課題と対応策をコンセントの取締役/サービスデザイナーの大﨑優さんが示していきます。第4回のテーマは「仮説生成力」です。

 デザイナーの仮説生成の力はすこぶる評判が良い。

 デザイナーと協働するビジネスパーソンに「デザイナーがいて良かったと思えることは何か」と尋ねると、回答として多いのは決まって「仮説生成の力」です。どの企業でもいちばん多い。そんな印象です。

 たとえば、UIモックアップ、体験シナリオ、ビジュアルデザインのスケッチ、事業案を表現するチラシ、ビジネスモデルの図示。デザイナーの仮説があるとプロジェクトがどんどん進む。もやもやした概念が可視化されると「これこれ!」とチームに活気が生まれる。停滞した気持ちが浄化される――。とりわけ企画の初期段階で期待が高まります。

 私はデザイン組織を外部から支援する仕事をしています。デザイン組織の課題を特定し、その解決に向け伴走していく仕事です。組織の課題特定を目的に、デザイナーではないビジネスパーソンにヒアリングすることが多いのですが、その際に「仮説生成の力が素晴らしい」という反応をたくさんもらいます。プロジェクト成果への貢献が大きいだけでなく、おそらく多くの人の感動体験として印象深いのではないか。そんな推測もできるほど、回答者の目は輝いています。

 5年目からのデザイナーは、デザインを相対化し、デザインとその外側との境界で活躍できる能力を身につけることが重要です。その境界で成果を出し信頼を得るには、仮説生成の技を磨くことも不可欠です。

仮説は「いつ、どう出すのか」

 仮説の可視化は、アウトプットの質よりも「いつ、どう出すか」のほうが重要です。プロジェクトの流れは音楽のようでいて、さまざまな役割のメンバーの協働でグルーヴを奏でています。タイミングを外したアウトプットは効果を出さず、プロジェクトの促進材料とはなりません。そして、ただそのまま出すだけでは「で?何?」と静まり返ってしまう。文脈が大事なのです。

 たとえば事業開発において、ビジネス領域が定まりながらもサービスイメージはおぼろげ。チームメンバーが各々の言葉で語りながらも決定的な共通の像を結べていない。そんなときに「たたき台としてこんな体験を考えてみました」と、デザイナーから手書きのようなスケッチが出てくると、それをもとに生産的な議論が始まる――。素晴らしい仮説生成の技が決まるわけです。

模式図。デザイナーの仮説生成を目的別に整理した図。ひとつめはチームビルティング。メンバー間でお互いの意向や考え方を共有する目的となる。ふたつめは論点の確認。これから検討すべき論点を特定する目的である。3つめは問題の発見。何が問題かをメンバーやユーザーから引き出す目的。4つめは解決策の検証。想定する解決策が有効なのか試して検証する目的である。

 しかし、ここでデザイナーがスケッチの出来栄えを気にしてタイミングが遅れてしまうと、こんな素敵な瞬間は生まれません。時間をかけてクオリティを上げすぎてしまうと、たたき台としては機能しづらい。デザイナーが「たたき台です」と、自分からつっこまれ役を買って出たとしても、立派なアウトプットほど指摘しづらいものになってしまいます。

 サービス仮説が結像する直前。体験価値の構想段階。ユーザーインタフェースの原型が生まれる時。ブランド知覚が出現し始める間近。細かなインタラクションを構築していく局面。

 仮説生成のタイミングはこのようなものですが、その可視化が威力を発揮する現場に身を置き、適時的確にデザイナーはアウトプットしなければいけません。クオリティをベースに考えるのではなく、タイミングをベースに仮説生成するのです。

 そのときに、「たたき台として弱い推論を提示しているのか」「対話を引き出すために無理矢理にでも仮説をつくっているのか」「決定打としてゴールを決めにいきたいのか」、そんな意思表示をすることも合わせて必要です。そういった文脈を示さないでいると「で、どうしたいの?」という空気になってしまうもの。的確なタイミングで必要な強度の仮説を出すことにくわえ、自分はどのような意図で仮説を出しているかというコミュニケーションもまた重要なものです。

俊敏型デザイナーが組織を動かす

 話しながら仮説を描いていく。素早くつくって即時の対話を求める。指示されなくても自分から動く――。優れたデザイン組織にはそんな俊敏型のデザイナーが必ずいるものです。ミーティングの間にどんどん仮説が可視化されていく。ときには、頼んでいないのにカタチになっていき、相手の感動を誘います。

 その場でつくりながら考え、考えながらつくる俊敏型デザイナーの行動様式は組織全体に伝染し、構想する姿勢が伝播していく。熱量も上がっていきます。

 俊敏型デザイナーがいるとデザイン組織への好感度も上がっていき、デザインに対する期待も膨らんでいくでしょう。プロジェクトの検討サイクルが早く回るため、企画段階からデザイナーに声をかけないとマズいという空気にもなっていきます。

 俊敏型デザイナーは、自分で仮説を立てても必要であればすぐに考えを取り下げます。そのスタンスを周りに示すことで、チームの批判的思考を刺激していくのです。みんなが仮説を積極的に提出しあい、それを組織として磨き上げる循環が生まれ続けます。

リスト。デザインへの好意と期待を高める俊敏型デザイナーの特長のリスト。項目は以下の7つ。1他者と対話しながらも、手を動かしながら仮説生成し対話をリードする。2自分の仮説を否定される事をいとわない、むしろ歓迎する。3 必要があれば、頼まれなくても主体的に先行的に仮説生成する。4常に前向きで、プロジェクトに対する好奇心が周りに伝播している。5ビジネス要件への理解が深い。もしくは理解しようと前のめりである。6考えること、つくることのスピードが速い。結果的に試行錯誤が深い。7デザインの意義や意図を相手の視点に立って言語化することができる。