思いを構築する、デザインと言語化――デザイナーが言語化を磨き上げる方法とは

思いを構築する、デザインと言語化――デザイナーが言語化を磨き上げる方法とは
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 軽やかに活躍し続け、組織や社会をしなやかに変化させていくために、そしてさらなる高みを目指すために必要な変化とは何でしょうか。本連載では5年目からのデザイナーに向け、その典型的な課題と対応策をコンセントの取締役/サービスデザイナーの大﨑優さんが示していきます。第5回のテーマは「デザインと言語化」です。

 世の中は「言語化」がブームのようで、書店を訪れれば、その分野のたくさんの本が平積みになっています。

 デザインの世界はビジネス領域に進展し、デザイナーはさまざまな立場の人とやりとりをする機会が増えました。そういった場ではふわっとした感覚論は通用しづらく、論理的に言葉を整えないと人は動いてくれません。おまけにチャット中心のワークスタイルが定着したり、仕事でSNSを活用する場面が増えたりと、黙々とテキストを打ちつける時間も長くなっています。世間は「言語化が大事だ」とせき立てますが、デザイナーも例外ではないでしょう。

 この記事のテーマである、5年目からのデザイナーにとっても言語化はとりわけ重要です。誰かの通訳に頼ることなく、自らデザインとビジネスの境界に立ち、他者へ行動を促し協働をつくりださなければいけません。

 デザインをする行為は無形の営みです。言葉はそのデザインに意味を与えます。言語化には難しさがある一方、無限の可能性も広がっています。

 今回は「言語化を磨くヒント」がテーマ。プロジェクトをともにする依頼者とのコミュニケーションをベースに紹介していきます。

「デザインの言語化」ではなく「デザインと言語化」

 言語化に優れたデザイナーのほうが、成果を残していく。たとえ、優れたアウトプットをつくったとしても、言語化が上手くいかないことでプロジェクトが前に進まない。デザイナーにとってはお馴染みの光景でしょう。

 私も若手時代は苦労をしてきましたので、周りの言語化が得意な人の行動パターンをつぶさに観察し、それを真似しようとしていました。会話に聞き耳を立てる。ふむふむとメモを取る。そうしているうちに、言語化が得意なデザイナーとそうでないデザイナーでは、言語化について異なる枠組みを持っていることがわかってきました。

模式図。言語化が苦手なデザイナーの枠組みについて。デザイナーが構想し、それが成果物となり、それを言語化する形で相手に伝えている。構想・成果物・言語化が順々に起きており、言語化は成果物をもとにした形でしか起こらない。言語化が成果物の範囲内でしかなされていない様子が示されている。

 上の図は、言語化が苦手な方のデザイナーの枠組みです。端的に言うと、言語化が苦手なデザイナーは「成果物をもとにした言語化」だけに労力を割いています。言語化が成果物を説明するための手段としてだけ機能しているような状態です。常に成果物の話だけをしている、もしくは成果物をつくる過程の“自分の仕事の説明”に終始してしまっている。そんなイメージです。

 一方で言語化が得意なデザイナーの枠組みは次のような形です。

模式図。言語化が得意なデザイナーの枠組みについて。デザイナーが構想し、それが成果物と言語化に分岐しており、最終的に相手に伝わっている。成果物と言語化は個別に存在している。それにより、成果物の範囲にとらわれない柔軟で広範な言語化を実現している。成果物の範囲を超えて、構想の言語化だけでもビジネスに貢献している様子が示されている。

 言語化が得意なデザイナーは、「デザインの成果物」と「問題解決などの構想の言語化」は独立した別の仕事と捉えています。プロジェクト空間のなかでは、デザインの成果物だけでなく、言葉だけでも解決を示せるものは多い。成果物だけを起点に会話していると、議論の視野が広がらないことを知っています。成果物ベースの言語化だけでは、論点がデザイナー側に寄りすぎてしまい、対等な関係を築けないことを自覚しているのです。

 プレゼンテーションの場でも、言語化が上手なデザイナーはデザイン成果物のことを話しているようで、実はそのプロジェクトが解決する問題空間全体について言及していることが多いものです。全員が共有する問題へとフォーカスを寄せることによって、全員の主語を「私たち」にしていく。成果物中心の言語化をしてしまうと、どうしてもデザイン知識の差が際立ってしまい、依頼者とは「私とあなた」の構図になりがちです。言語化が上手なデザイナーは、成果物そのものへの言及は意外に短い。そうすることで巧妙に、対立構造を避けるよう工夫しています。

 このような状況を指して、「コミュニケーション能力が高い」と評されることがあります。ただ、実際の現場を見ていると、口下手であったり、語彙が少なかったりと、傍目にみても「話し上手」な雰囲気ではないことも多い。それでも成果を出しているのは、コミュニケーションの技術的な問題というよりも、言語化に対する枠組みそのものの違いであると私は感じています。