タイトルで惹きつける至高のミステリ小説――『〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』『そして誰かがいなくなる』

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“事件が起きそうな洋館”を実際に新築して執筆した『そして誰かがいなくなる』

 2冊目は『そして誰かがいなくなる』(中央公論新社/下村敦史 著)。え、『そして誰もいなくなった』ではなくて? そう思った方もいると思いますが、それはアガサ・クリスティーの名作長編。このタイトルはその名作のオマージュになっています。

そして誰かがいなくなる』(中央公論新社/下村敦史 著)

 もちろん内容もしっかりインスパイアされていますが、小説の世界にはこのように「過去にヒットした作品と少し似たタイトルにすると売れやすい」という法則があります。最近だと『○○にいたる病』というミステリ小説が売れている印象です。

 この小説もタイトルだけではなく、内容もすごい。とある小説家が建てた新築の館が舞台なのですが、ただの館ミステリじゃないんです。なんと著者の下村敦史さんは、この小説のためだけに実際に建築士の方と相談して、「事件が起きそうな洋館」を新居として建てたんです。

 「事件の起きそうな洋館」なので普通の家にはない隠し扉なんかも……この小説ではその下村さんのご自宅の写真が挿入されています。これもミステリの中では新しすぎるド派手な試みですが「部屋の写真を入れる」というのはかなり効果的な演出なんです。

 館ミステリは、その内部の見取り図が最初のページにあり、それを読み返しながら楽しむ人が多い小説。ただ空間把握能力があまり高くない人にとっては想像するのが難しいこともあるため、敬遠している人もいます。そこで、実際の写真を載せることでそのウィークポイントが一気に解消されます。なんせ空想の産物ではなく、現実世界にある本物の写真ですからね。これほどすっと頭に入ってくる館ミステリはないのではないでしょうか。

 下村さんが私財を投じて作られたこの小説。その覚悟がおもしろさにも反映されている1冊です。文章だけでなく写真でも楽しめますよ。

 今回紹介した2冊は、「惹きのあるタイトル」で目に留まらせる力がすごいのはもちろん、内容のインパクトもすばらしいです。タイトルはお客さんを引き込む入り口。創作物の中身だけでなく、そこにつなげるための“入り口づくり”にも全力を注ぎたいものです。