タイトルで惹きつける至高のミステリ小説――『〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』『そして誰かがいなくなる』

タイトルで惹きつける至高のミステリ小説――『〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』『そして誰かがいなくなる』
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 書店員芸人として活躍するカモシダせぶんさんが、クリエイト脳を刺激された本を毎回2冊お届けする本連載。第4回は、『〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』『そして誰かがいなくなる』を紹介します。

 毎年春には満開の桜に心を癒され、落ちる花びらに自分の抜け毛を重ねて心が沈む薄毛の書店員芸人、カモシダせぶん(@kamo_books)です。

 今回のテーマは「タイトルで惹きつける!」。小説に限らず、創作物やプレゼンにおいてお客さんの目に最初に入ってくるのがタイトルだからこそ、とても大切ですよね。今回は、僕の知っている小説のなかで、タイトルも抜群!さらに中身のオリジナリティもすごいミステリ小説を2冊紹介します。

犯人だけでなく“タイトル”を当てる 『〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』

 まず1冊目は『〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』(講談社/早坂吝 著)。いやいや、伏字にしないでちゃんとタイトル教えてくれよ。そう思った方も多いのではないでしょうか。ですがそれこそがこの小説の大きな仕掛け。実はこのミステリ小説、事件の犯人とトリック、そしてこの小説の「タイトル」を読者に当ててほしいという目的で作られたお話なのです。

〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』(講談社/早坂吝 著)

 そのため表紙でもタイトルは伏せられたまま。〇の中にはそれぞれ、漢字もしくはひらがなが入ります。隠された八文字はいったい何なのか。今までにない読書体験が待っています。

 ただ、シンプルに八文字だけだと当てるのは難しすぎます。「クリエイタージン殺人事件」も「かもしだみちあき殺人事件」も当てはまります(後者は僕の本名です)。そこで序盤にタイトルに関する大きなヒントが出されています。それは入る八文字が故事成語、つまりことわざだということ。これだとだいぶ絞れます「棚からぼた餅殺人事件」かもしれないし「早起きは三文の徳殺人事件」かもしれないし「石の上にも三年殺人事件」かも。あれ、ことわざでも8文字って結構多い……。

 そもそもなぜこのような試みを仕掛けたのか。そこにも大きな理由があります。この小説内で起きる事件のトリックが、そもそも「奇想天外」すぎるんです。普通のミステリ小説で考えたらかなり難易度が高いからこそ、このタイトル当ても効いてくる。この小説のタイトルになっていることわざは、事件のトリックとおおいに関係があって、まさにこの事件全体を表しているとも言えます。そのため普通に考えてもトリックがわからない人は、まずタイトルになる八文字のことわざを先に考え、それをヒントにトリックと犯人を当てるといった「イージーモード」も用意されているわけです。

 これはタイトル以上に斬新な試みだなと感じました。ミステリ小説の読者には、最初から推理する気はなく、お話の中の探偵に任せる人もいます。もちろんそれもひとつの楽しみかたとして素晴らしいのですが、そういう人たちにも「自分でもこのミステリ小説解けるかも」というワクワクを持ってもらうような、マクロな視点で考えられている小説なんです。表紙に書いている文字も『タイトル当て殺人事件』などではなく『〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』のほうが目を引きますよね。そこも非常に考えられている。手に取らせ、そこから読ませる掴み力が抜群な小説です。ぜひとも。