クリエイターがブランディングを武器にするためには インサイトフォース山口さんとベイジ枌谷さんが語る

クリエイターがブランディングを武器にするためには インサイトフォース山口さんとベイジ枌谷さんが語る
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2020/03/19 08:00

 2月14日に開催したクリエイター向けイベント「Creators MIX 2020」において、「クリエイティブとブランディングの関係」と題した講演を実施。ブランドやマーケティング領域特化の戦略コンサルティングファーム「インサイトフォース」の山口義宏さんと、BtoBに強いウェブ制作会社「ベイジ」の枌谷力さんが登壇した。本セッションでは、山口さんがモデレーターをつとめ、ビジネスサイドとクリエイター両者の視点から、クリエイターがブランディングを学ぶメリットや活用する際のポイントなどが語られた。本記事ではその様子をお届けする。

ブランドとはなにか

山口 まず、「ブランド」という言葉の認識を揃えるために、こちらの図を共有します。

ブランド=ロゴと捉えられることもあり、それも間違いではないのですが、大切なのは左側にある「識別記号」という大きな概念を理解することです。

たとえば、コカ・コーラのロゴや黒い炭酸の飲み物を見かけたら、これはコカ・コーラだなと認識できますよね。私たちは五感で世の中にあるものをすべて無意識レベルで識別しています。ブランドのロゴは「それがなにか」を識別するための識別記号の中の代表選手という位置づけです。

右側にあるのは、知覚・認識された価値。私たちは「知覚価値」と呼んでいます。コカ・コーラだったら、過去に飲んだときの体験や広告でふれたときの体験によって、味や飲んだときの気分、シーンといった価値が連想されますよね。

このように、記号を見てその価値が思い出せるようになったら、ブランドとしてしっかり認知され、理解されている証拠です。それがさらに強いブランドになると、気分転換したいと思ったらコカ・コーラを思い出す、というように、右の「知覚価値」から左の「識別記号」を最初に思い出すことができれば、相当“強い”ブランドになっているということです。

これを前提に考えてみると、ブランド側の目線では、クリエイティブとしてのアウトプットは、この知覚価値を強化するためのもの。つまり、ブランド戦略を推進する立場からすると、ブランドの知覚価値とブランドの識別記号をしっかり定義して、一貫性を持って運用することが大切なんです。

インサイトフォース株式会社 代表取締役 山口義宏さん
インサイトフォース株式会社 代表取締役 山口義宏さん

今日は、およそ20年にわたってクリエイターとして活躍されてきた枌谷さんに、ブランドをどのように覚え、使い、ビジネスの付加価値をあげてこられたかを伺いたいと思っています。

枌谷 まず私の自己紹介をすると、私がデザイナーになったのは28歳のときでした。美大や専門学校でデザインの勉強をしていたわけでもなく、未経験でデザイナーになりました。28歳未経験デザイナーの転職は当然順調ではありませんでしたが、ある会社から「ウェブデザインのチームを作りたいからその一員になってほしい」と言われ、ほかに選択肢はないと思い、その会社に入社しました。

しかし入ってみると、ウェブデザインのチームは存在せず、ウェブデザインをやるデザイナーも事実上私しかいませんでした。チームがないので、未経験でいきなり、制作も提案も営業もすべてやらなければいけない立場になってしまいました。

そうやって全部ひとりでこなす中で、ただデザインを作るだけではなく、提案書を作ってデザインの説明をすることをやるようになりました。そう発想したのは、前職が企画営業だったからかもしれませんね。

そしてデザインを提案するうえで、ブランディングと紐づけると説明しやすいと思い、ブランディングの本を読むようになりました。

株式会社ベイジ 代表取締役 枌谷力さん
株式会社ベイジ 代表取締役 枌谷力さん

ブランディングの本を読む中で私は、自分の中の「ブランディング」の理解が間違っていたことに気が付きました。最初は私も、今あるブランドをまるでBMWやベンツ、ルイ・ヴィトンのように高級に見せるのがブランディングだと思っていました。

ですが、私が手にしたブランドの書籍『ブランド戦略シナリオ―コンテクスト・ブランディング』には、「ブランディングとはコンテキストを作ること。たとえばブルガリアといえばヨーグルト、チョコレートといえば明治、といった連想ネットワークを作り上げること」と書いてありました。

それを読んだときに「ブランディングってそうだよな」と腑に落ちると同時に、デザイナーが口にする「ブランディング」は間違っていることが多い、と思うようになりました。

とはいえその当時は、そのブランディングのあるべき姿と、自分がいま目の前で取り組んでいるデザインとを、うまく結びつけることができませんでした。あるべき姿と目の前の現実が、あまりにも乖離していたんですよね。

本質的なブランディングを語ろうとすると、お客さまの現状のビジネスを否定せざるを得ないときもあります。一方で自分が求められているのは、あくまでウェブサイトをデザインすること。この理想と現実の乖離を埋めるために、デザイン提案の中でいかに自然にブランディングの文脈を組み込むかを、ずっと試行錯誤してきた気がします。

山口 僕もデザイン案件で経験があるのですが、デザインの選定評価って根本的には、個人の好き嫌いから逃れられないように感じています。おそらくデザインで何かしら提案する、もしくは評価をする際に、個人的な好みってどうしてもあると思うんですよね。

でも、デザイン選定議論において、個々人の好き嫌いだけでは議論しにくいし、声が大きい上位の役職者の好みで最後は判断となりがちです。でも、そのブランドはどんな知覚価値を感じてもらいたいのか?という合意がとれていれば、デザインの議論もその基準からみての善し悪しになるため、議論がしやすくなります。

枌谷 最終的に好みでしか判断できない領域でも、ブランディングの考えかたやロジックをもっていれば、フェアな視点での議論がしやすくなりますよね。デザイナーは、自分に都合がいい話ばかりする、と思われている節もありますから。デザイナーとしてビジネスパーソンと対等に議論が交わせるようになったことは、ブランディングを学んだ大きなメリットのひとつではないかと感じています。

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