クリエイターエコノミー協会は、三菱UFJリサーチ&コンサルティングと共同で、国内のクリエイターエコノミーに関する調査を実施。本調査では、国内の市場規模やクリエイターの収益状況、見えてきた課題や今後の成長予測について考察する。
国内クリエイターエコノミーの市場規模と拡大要因
本調査では、クリエイターエコノミーを、SNSをはじめとした「クリエイターが活動をする場」と、「モノ・コンテンツ・スキル提供/クリエイターとの繋がりの場を提供する」のふたつに大きく分類。この分類と紐づいた形でふたつの観点から市場規模は算出された。
今回の調査で、国内クリエイターエコノミーの市場規模は1兆3,574億円にのぼることが明らかになった(※2022年10月11日為替レートにもとづき、1ドル=145円として算出)。そのなかで「スキルシェア市場」、「モノ/グッズの販売市場」、「動画投稿関連広告市場」の3つが2,000~3,000億円程度と大きな割合を占めている。なお、2021年に実施された海外の調査では、世界のクリエイターエコノミーの市場規模は約1,042億ドル(1ドル=145円とすると15.1兆円)と推計されており、国内クリエイターエコノミーがその約1割に相当する。
拡大の要因については、メディア向け説明会に登壇した三菱UFJリサーチ&コンサルティング 新村氏は「クリエイターとユーザー、それをつなぐサービスやプラットフォームの要因が複合的に重なり合って成長しており、それらを加速させたのがコロナ禍」と解説した。
クリエイターエコノミーの変化
クリエイターエコノミーが誕生した初期は、コンテンツに紐づく広告で収益をあげるケースが多く、幅広い消費者の関心を集める必要があった。そこに、モノやコンテンツ、スキルをクリエイターが直接販売できる収益モデルが登場。最近ではクリエイター個人がサブスクリプションを簡単に提供できるサービスや、ファンと交流できるコミュニティサービスなどが続々と登場したことにより、必ずしも幅広い消費者の関心を集める必要がなくなってきている。すなわち、モノやコンテンツの「対価」だけではなく、クリエイター個人の活動への「サポート」としても収入を得られるような状況にある。
新村氏はこういったクリエイター活動の変化として「“コンテンツ”ベースから、“個人”に紐づいたものに変化してきている」ことが調査結果のポイントであると強調した。
実際にクリエイターは、特定のプラットフォームやコンテンツのみに活動の場を限定せず、目的や収益化手段に応じて横断的にプラットフォームを活用。プラットフォームやサービスを複数利用している人と単独で利用している人とを比較すると、前者のほうが収入を得ている人が多く、クリエイター活動を通じて得る1ヵ月あたりの収入額も高かった。
多くのファンを抱えるクリエイターへのインタビューでは、ブログの執筆からクリエイター活動を開始したものの、現在では動画、音声、イラストなどの異なるコンテンツでも収入を得るなど活動内容を広げていた。
こうした背景には、クリエイターが複数のプラットフォームを活用することで、消費者とのタッチポイントが増加し、自身について深く知ってもらうことで、ファンとのつながりを深めたと考えられる。消費者にとっては、SNSやライブ配信が普及したことで、以前に比べていわゆる“推し”の対象を見出しやすい環境となっている。
クリエイターの実態
15〜69歳の男女のうち、クリエイターとして活動している人の割合は10%であった。ここでのクリエイターは、「クリエイター活動のプラットフォームにモノやコンテンツを提供したことがある」としている。この数値をもとに推計すると、国内のクリエイター数は約822万人となり(趣味として活動しているクリエイターを含む)、プラットフォームで活動している人に限定しているものの、すでに一定の規模を持つことがうかがえる。
クリエイター活動のきっかけは「自分の創作した物・サービスを発信したかった」が65%ともっとも多かった。収入を目的としているケースも半数弱あるものの、必ずしも収入だけを目的にクリエイター活動を開始しているのではなく、自身の趣味や特技の延長で活動をスタートし、結果的に収益につながっているクリエイターも相応に存在すると考えられる。
クリエイターの収入分布
収益状況では、約6割のクリエイターが収入を得ていると回答。そのうち10万円以下が75%、30万円以下が全体の90%程度を占める。収入ゼロのクリエイターを含めた平均収入は1ヵ月あたり12.8万円で、100万円/月を超える収入を得ているクリエイターも2%存在している。
専業のクリエイター、兼業のクリエイター、趣味として活動している人の3つに分類し、収入の有無に関するアンケーを行ったところ、専業で行っているクリエイターの収入が多く、半数近くが20万円の収入を得ていることがわかった。
クリエイターの課題
クリエイター活動を行う上で、収益化や資金獲得、活動時間の捻出に関するものが課題の上位を占めているものの、お金を払ってでも解決したい課題としては、「法律や税金等の事務処理」が46%という結果に。それ以外にも「個人での企業交渉」、「トラブル対応」など、オペレーション面が上位を占めており、創作活動以外も含めたトータルサポートに対するニーズが想定される。
また、クリエイターの25%が誹謗中傷を受けた経験があることも調査で明らかになった。そのうちの69%が誹謗中傷を受けた際の対応について「何も対応していない」と回答。今後、クリエイターエコノミーの拡大にともない、誹謗中傷に悩むクリエイターも増加する可能性があり、行政とも連携しつつ、業界やプラットフォームとして対処することが求められる。
国内クリエイターエコノミーの将来性と成長に向けた課題
現時点での国内の潜在クリエイター数は2,200万人にのぼると推計され、前述した現在クリエイターとして活動している人と合わせると、その数は3,000万人を上回り、国内の経済成長に寄与する観点でも大きなポテンシャルを秘めていることがわかった。今後も同程度のペースで市場が拡大した場合、クリエイターエコノミー市場規模は2034年に10兆円を上回ると試算できる。
今後の展望
消費者の中でクリエイター活動に取り組んでいない人に対して、クリエイター活動への取り組み意向を尋ねたところ、33%がなんらかのクリエイター活動へ取り組みたいとの意向があった。その理由については「自分の知識や能力を活かしたい」、「年齢に関係なく取り組める」などが上位に。趣味としてまずはスタートしてみるという意識が社会全体に広まることで、クリエイターエコノミーは拡大するのではないかと予想される。
今後のクリエイターエコノミー市場規模の将来に関しては、潜在クリエイターの人数、ひとり当たりの収入増加、支援サービスの利用拡大を考慮すると、2034年には10兆円を上回るものと試算される。
拡大するにつれて克服する必要がある課題として示されたのは、「クリエイター活動の促進」「自社サービスの品質向上・事業拡大」「制度対応」の3つ。誹謗中傷への対応、クリエイター活動に集中できる場をつくる、収益化を後押しするなどの取り組みが求められる一方、著作権やプライバシー、課税など、制度周りにおいてもクリエイターの活動のハードルとなりうるものをひとつずつ克服することも、クリエイターエコノミーの成長に向けた重要なポイントと考えている。
誹謗中傷問題への対処なども含め、規制の緩和や法律の整備等によって社会環境を整えるとともに、クリエイターを包括的にサポートしていくことが必要であり、行政、業界が一丸となることで、さらなる市場成長を実現することができるだろうと結論づけた。