三菱総合研究所(以下、MRI)は、日本デザイン振興会(以下、JDP)と「第2回 企業経営におけるデザイン活用実態調査」を実施し、その調査結果を発表した。
MRIは、国内企業へのデザイン経営浸透に向け、JDP、経済産業省、デザインファームなどと連携しさまざまな支援、調査研究を展開している。2020年2月、第一歩として、JDPとの共同研究で「第1回 企業経営におけるデザイン活用実態調査」(以下 2020年調査)を実施。今回の調査は、主に2020年調査からの時系列変化を追うことを目的としている。
同調査結果の詳細は、次のとおり。
1.デザイン経営の積極度は「売上増加率」「CS」「ES」にプラス効果
同調査では、「デザイン経営の取り組み」に関する質問の回答結果に対して0~10点の配点を付与し、配点の総計上位から回答企業を4つにセグメント化し、取り組みの積極度による比較分析をおこなった。
デザイン経営のビジネスへの影響を確認するため、ビジネス成果指標として、財務の観点から「(過去5年の平均)売上増加率」、売上成長の基盤となりうる非財務指標として、顧客満足(CS)の観点から「自社のコアなファン」、CSのベースとなる従業員満足(ES)の観点から「従業員からの愛着」を設定し、セグメント間で比較した。
その結果、デザイン経営に積極的な企業では、過去5年の平均売上増加率について「20%以上増加」と回答した企業が12.4%、「同業他社と比較しても『コアなファン』は多い」と回答した企業が71.2%、従業員から「とても愛着がもたれていると思う」と回答した企業が23.8%といずれもほかのセグメントより高い傾向を示した。
デザイン経営に積極的であるほど各指標の肯定的な項目の回答率が高い傾向は2020年調査と同様であり、改めてデザイン経営がビジネス面にプラス効果を与える可能性が明らかとなった。
2.デザイン経営の推進状況は横ばい
2020年調査と同じ配点基準により4つのセグメントの構成比を比較したところ、全体として大きな変化は見られず、3年前と比較してデザイン経営が進展したとはいえない状況であることがわかった。
3.デザイン経営推進上の課題はいまだ解決されず
デザイン経営を今後も推進していくと回答した企業の課題としてもっとも多く挙げられたのが「費用対効果の説明が困難」、次点が「新商品・サービスデザインをリードできるデザイナーの不足」で、2020年調査と同様の順位に。続く課題についても2020年調査と同じ順位、同水準の回答率となっており、3年を経てもデザイン経営推進を取り巻く課題状況は変わっていないことが明らかとなった。
4.「デザインへの投資」と「投資に対する将来期待」は上向き
デザインへの投資状況は、2020年調査と比較し全体として増加傾向に。特にデザイン経営に積極的な企業ほど「増加している」とする割合が増えた点は、注目すべき変化といえる。
また、デザインへの投資に対する将来的な期待についても、「大きな期待がある」とする企業の割合が増加した。
まとめ(調査結果からの示唆)
本調査では、2020年調査とあわせて、デザイン経営がビジネス面にプラス効果を与える可能性が改めて明らかとなりましたが、この3年間でデザイン経営の進展状況や課題認識に大きな変化がないことは課題といえる。一方で、デザイン投資は増強され、その将来的効果に対する期待も高まっている状況が明らかとなり、デザイン経営のさらなる浸透に向けた素地は形成されつつある。
デザイン経営を一層浸透させていくには、多様なデザイン活用の可能性、および客観的かつ定量的な費用対効果を提示していくことが重要。それにより、企業経営者がデザインの価値を深く理解し、自社にとって最適なデザイン活用を実践する動きを加速させることができる。
引き続きMRIはJDPと連携して、経済産業省をはじめとした官公庁や企業団体、デザインファームなどとのネットワークを活かし、産官学連携のハブ機能を果たしつつ、デザイン経営の浸透に向けた研究や取り組みを実施することで、デザインの力で日本の経済や社会をより豊かにする活動に貢献していく。
調査概要
- 時期:2023年3月~4月
- 対象:過去に「グッドデザイン賞」に応募したことのある企業 5,855社
- 回答数:493社
- 方法:ウェブアンケート調査
- 項目:デザイン経営の取り組み状況、デザイン経営のアウトカム、「『デザイン経営』宣言」に対する認知度・影響度 など