前回の記事では、事業に伴走するためにデザイナーが持つべき視点について紹介しました。今回は事業の立ち上がりフェーズに絞り、ひとりめのデザイナーが事業の創業期に担うべき役割について紹介していきます。
今回「事業の立ち上がり時期」として想定するのは、下記のような3つの場面です。
- スタートアップに創業メンバーで入るケース
- 新規事業の立ち上がりにジョインするケース
- 外部からパートナーとして事業立ち上げを支援するケース
それぞれのケースにおいて、デザイナーに求められる役割や共通する点を紹介しながら、“ひとりめデザイナー”の輪郭をつかんでいければと思います。
デザイナー不在の組織へ加わるときにまずすべきこと
ここからは具体的に、立ち上がりのフェーズにデザイナーとして関わっていくために費強な取り組みについてお話していきます。
創業フェーズに限らず、デザイナーが不在の組織へひとりめのデザイナーとして入社する場合、組織におけるデザイン理解がどの程度あるのかを事前に知ることが大切です。
この前提認識のズレに気づかないまま会社にジョインしてしまうと、デザイナー自身の期待値と社内メンバー内での期待値に大きなズレが生まれ、高いパフォーマンスを発揮できないことがほとんどです。
「経営者がデザインを理解してくれない」、「デザイナーが孤軍奮闘している」といった話をよく聞きますが、そういった問題の大半は、デザインに対する期待値の擦り合わせができていないことが要因です。
こうしたデザインに対する理解度に起因するミスマッチを避けるためにも、入社前の段階で経営者やメンバー間で、デザインに対しどのような理解や認識がなされているのか、ヒアリングをしておくとよいでしょう。
下記の例のように組織におけるUXの成熟度を図り診断しておくことで、自分が所属する組織は今どのステージにあり、今後どんな成長を目指しているのか目線を揃えることができます。そのスタートラインを合わせるだけでも、効果は発揮されると思います。
UX成熟度モデル
- 認識されていない:UXは重要ではない
- 興味がある:UXは重要だが、あまりお金をかけることはできない。
- 投資をしている:UXはとても重要であり、定型化されたプログラムがある。
- 実施している:UXは極めて重要であり、経営陣も積極的に関わっている。
- 定着している:UXは、組織の戦略の中でもっとも重要な信条のひとつ。
- 組み込まれている:UXはその組織構造の中にあり、個別に議論されるものではない。
では、上記のフェーズにあったアプローチ方法を見ていきましょう。
1〜3のフェーズに属する企業では、ひとりめのデザイナーとして入社する場合、デザインやUXについて組織内でリーダシップを持ってチームを動かす能力が不可欠です。そうでない場合、デザインはオプション的な扱いとなり、顕在化した依頼をこなすだけの状況が生まれる可能性が高いと思います。
一方で、4のフェーズ以上でデザインに対する前提知識がある会社にデザイナーとして入社した場合、提案や意見は積極的に取り入れられる傾向が高く、比較的デザイン活動を協力的に支援してもらえる体制が整っていると言えます。
5、6のような状況に至るにはすでにデザイナーが在籍していることが前提になるため、ひとりめの入社タイミングとしては当てはまりません。ひとりめのデザイナーの場合、3や4のフェーズにある組織であれば、円滑にデザイン活動を進められることが多いはずです。
ここで重要なのは、スタートアップや新規事業など、まだ関係者が創業者や数名といった1や2のフェーズにある組織でも、変化を起こすチャンスは十分にあると言うことです。いかに小規模な組織の段階からデザインに対する前提理解を変え、目線を揃えていけるかが、その後の組織内でのデザイン理解を円滑にするカギとなります。