制作費用は工数ではなく「提供する価値」から算出 nanocolorのこだわりとは
川端さんの経歴をさかのぼると、入社した先で楽天への出店を任されたことからデザインのキャリアは始まる。パソコンの扱いかたを知らない状態から、独学でウェブデザイン、LPやバナー、広告、そして商品開発や配送など、ECという事業に関わるすべての業務を経験したという。
「当時は自社ECの売上をあげることがすべてでしたので、デザイン制作は事業施策のひとつという位置づけだったのですが、ある日、知り合いの方からデザイン制作を頼まれたことがあり、とても感謝をしていただけた。こうした体験がきっかけで、運用のサポートや制作事業について考えるようになりましたね」
nanocolorが提供するサービスはLPの制作がおよそ半数弱を占めている。クライアントの予算金額の中でできることを考えていくやりかたではなく、川端さんが目指したのは別のアプローチであった。
「制作工数を増やすことでデザインの質をあげることができ、それによりクライアントの売上はあがるのかと考えたら、決してそうではない。目標値から逆算して必要な施策とそれにともなう制作物が必要であり、そのための広告クリエイティブを私たちから提案するようにしました。
起業当時はとても安く、それこそLP制作費用が10万円ほどでした。しかし予算10万円内で工数を算出するのではなく、当時できうるすべての提案をしました。『ここまでしてくれるの?』と驚いていただくことが増えましたが、その知見や経験をもとに次の案件では20万円、30万円と少しずつ金額をあげていきました」
川端さんは案件に携わりながら、自社サービスの量と質を上げつつ、提供価格も上げていくという経営を行っていた。それにつれて、大手企業から直接問い合わせが入ることも増えていったという。
「ときどき、この案件は絶対にやった方がいいと感じたときがあったのですが、そういった場合には、費用やコストを度外視していましたね。売上ではなく、携わったスタッフも含め全員が次に活用できる経験をした方がいいと思っているからです。自分の無力感も達成感も冷静に受け止め、次に活かすことをとても大事にしています」
良いLP、良いバナーの定義とは
広告クリエイティブを作る立場として、川端さんは「広告は嫌われている」という認識に疑問を投げかける。ユーザーインタビューをするなかでよく聞くのは、「商品やサービスが欲しければ広告でもクリックする」という声だ。つまり、決してすべての広告が疎まれているわけではない。「無理やりボタンを押させようとする」広告が好まれていないだけだと川端さんは考える。
「『良い』バナーであればCTRもしっかりあがりますし、訴求したいターゲットと合った購入者も増える。そう考えると『広告が嫌われている』というのは、CTRの低さを正当化するためのものであるケースが多いのではないか、と思うんですよね」
では、マーケティングにおける“良い”広告やバナーとはいったい何か。そんな疑問が浮かんだ人もいるかもしれない。川端さんはどう定義しているのか尋ねると、「買っていただいたお客さまに、思っていたとおりの商品だと思ってもらえる購入動線であること」と即座に答えが返ってきた。
「LPやバナーで良い部分を過剰に表現して買ってもらったとしても、実際にそれが誇張した内容であるとわかれば、もうこのブランドでは買いたくない、と感じるお客さまも多いでしょう。
ビジネスモデルによる部分はもちろんありますが、多くの事業は20%の顧客が売上の80%を生み出していると言われていますよね。つまり、その商品やサービスを長く使いたいと感じてもらう入り口として、バナーやLPが機能していなければ、たとえ売上数を伸ばすことができたとしても、その後の利益につながらない。私は長い目でみたときにも成果を出せるようにしたいんです」