こんにちは。はやいもので、「パッケージデザインをひもとく」の連載も3回目を迎えました。商品パッケージはその触れる機会の多さから、無意識レベルに日常へと溶け込んでいます。そんなパッケージも読者のみなさんと連載を重ねることで無意識から少しずつ切り離れ、輪郭がみえてきたのではないでしょうか。
さて、それではさらっと前回の内容を振り返りましょう。前回は"良いパッケージデザイン"について考えました。誰になにを伝えたいのか、どのような目的を達成したいのか、それが明確になっていることが良いパッケージデザインに辿り着くためのひとつの答えなのでは、という解に着地しました。そして一度に伝えるメッセージが多すぎると、逆に伝わりづらくなってしまうこともおわかりいただけたかと思います。
今回のテーマは「ブランディング×パッケージデザイン」です。
最近では当たり前のように使われる言葉、ブランディング。ぼんやりと高級ブランドを思い浮かべ、かっこよくロゴマークを作って色や形を揃えてといったイメージがあるかもしれませんが、言葉が先行していて、ブランディングとは一体なにをすることなのか、輪郭がぼやけてはっきりしません。
ここでまずは、ブランディングという言葉を振り返ります。良著が数多くあるので紹介を兼ね引用しつつ、紐解いていきましょう。そして長く続いている商品、ロングブランドのパッケージを見ていきます。今回はどんな「!」や「?」に出会うことができるのでしょうか。
そもそもブランドってなんだろう
今回の基本となるブランド、ブランディングという言葉の意味をまずはしっかりと押さえていきましょう。書籍「デジタル時代の基礎知識『ブランディング』」によれば、ブランドとは「識別記号と知覚価値が結びついたもの」と定義されています。このままでは少し直感的にわかりづらいので、もう少し噛み砕いていきましょう。
まず「識別記号」とは特定のものをほかと区別するためにつける記号、わかりやすいところで言うとロゴやアイコンです。自分の持ち物に書く名前も識別記号と言えるでしょう。
またこの記号というのは目に見えるものだけではありません。触覚で感じる点字、音の出る信号機はその音によって、青であることや交通量の多い/少ないを伝えています。記号の表現は視覚的なものに限らずさまざまな媒体があるというのは、押さえておきたいポイントです。
次は「知覚価値」です。知覚価値とは消費者が認識している価値のことを指します。ファストフードであればある程度どんな人でも、「安い」「早い」「旨い」と認識し、それらが求めている価値だと思います。消費者の認識する価値という部分がポイントですね。その商品、サービスに対するイメージ、世界観も含めるため、カタログスペック、機能の価値だけにとどまりません。
これらが結びついたもの、記号とその記号から消費者が想起する価値が一致している状態がブランドと言えるでしょう。Appleのリンゴマークを見れば、多くの人が洗練された製品やそのクリエイティブをイメージすると思います。
しかし果物のリンゴを見ただけではそんなイメージは抱きません。不思議ですね。それを知るためにも、次はブランディングについてみていきましょう。
ブランディングって何をしているの?
ブランディングと聞くとなんとなく、「ロゴやシンボルを作り、共通のカラーや書体を選んでそれをすべてに展開する」というような目に見えるアウトプットの部分を思い浮かべる方もいるかもしれません。その本質はどこにあるのでしょうか。海外で数多くのアートディレクションを手がけるデザイン会社・HI(NY) designの方が手掛けた著書『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』では、ブランディングを次のように説明しています。
ブランディングとは、
- 戦略的に企業、商品やサービスの強みを引き出し
- 環境や時代、消費者のニーズを踏まえながら
- 消費者や社会に伝わるようなかたちで表現し
- 企業のブランド価値を向上させる
経営戦略です。そして、ブランディングの最終ゴールはファンになってもらうこと。
価値そのものを発見し、それを伝わるかたちへと加工していく――。一連の流れがつながっていることがポイントですね。
さきほど例に出したAppleに当てはめると、製品本体の革新性だけでなく、パッケージや店舗のデザイン、その店舗で働いている人まで一貫したAppleらしさを私たちは感じとることができます。その“らしさ”を形づくっていくことがブランディングと言えるでしょう。